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□秒は無理
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第1話 劇中

「糸巻さん。それ、俺が代わりにやりましょうか?」

背後から飛んで来た声に三人が振り向くと、LEDのライトが赤く光るヘッドホンを首に落として崩れた髪型を手櫛で整える若い男が立っていた。第4機捜が集めた防犯カメラの映像解析を引き受けてくれるというその青年を前に、伊吹は和やかな表情を浮かべて「誰?誰?」と糸巻と青年の顔を交互に見遣るが、糸巻は一切を応えずに椅子から勢い良く立ち上がり、志摩を押し退けて問い質すように青年の肩を鷲掴んだ。その顔は至極真剣だった。

「本気で言ってるのかい?」
「え?はい、こっち終わったんで」
「本当にいいの?」
「…何スか?聞いた感じ、大した作業じゃないっスよね?別に良いっスよ」
「あーりがとーっ!マジで!ホント助かるよ〜!」

青年を抱き竦めて声高らかに感謝を告げる糸巻。それを怠そうに甘んじて受け入れる青年。糸巻はくるりと志摩と伊吹に向き直り、ニヤリと悪い顔で笑うとやっと青年を二人に紹介した。

「仕方ないから君達にはウチのホープにしてエース、コードネーム『カラス』の雨月を貸してやろう」
「『レイヴン』っス。てか、それCTFのハンドル…」
「んん?情報が錯綜してるんだが、…新人?」
「ちょっとちょっと!俺達急いでるんだってば。新人ちゃんじゃなくてマキマキが探してよー」

伊吹は糸巻の胸倉を掴んで前後に揺さ振る。雨月はその様子をじっと見つめ、そして「お洒落っスね」と呟いた。

「え?」
「自分も同じブランドの服持ってるんスけど、そうやって着るとかっこいいっス。真似して良いっスか?」
「何この子。超良い子じゃーん!」
「チョロすぎるだろ」

典型的な胡麻擂りに乗せられて雨月の手を取る伊吹の後頭部を志摩がバシンッと叩く。

「痛ッた!?えっ、暴力!?」
「心配いらないって。雨月はウチの班じゃ新人だけどサイバー課にいたから俺よりずっと仕事早いし」
「へぇー。俺、伊吹藍。第4機捜のエース、よろしくっス〜」
「おい、まだエースも何もないだろ」
「んで、こっちは俺のペアの志摩ちゃん。ほら、自己紹介しなよ!」
「…志摩です」

志摩は伊吹に背中を押されて挨拶を交わすが、「出来れば早く調べて欲しいんですけど」とちらりと糸巻を見た。それには雨月も肩を竦め、糸巻に宥められながら彼が座っていた椅子に腰を落とす。

「あと、もし映ってたらこの人も探して欲しいんだよね。西田ふみこさん。このおばちゃんね、絶対映ってると思うから。雨月ちゃん!マキマキ!よろしくお願いします!」
「よし、秒で見つけて見返してやれ」
「流石に秒は無理っス」


END

(注) CTF:キャプチャー・ザ・フラッグ
ホワイトハッカー大会
 

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