RPS

□もういい
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第3話 劇中

「あーっと、これは…バッチリ写ってるっスねー」

志摩の提出した映像を確認すると、そこにはジャージを着た数人の男子学生がハイタッチし合う姿が写っていた。かなり興奮しているように見え、笑い声が聞こえてきそうなくらいはしゃいでいる。そうして自販機の灯りを頼りにジャージから私服に着替えると彼らは楽しそうに笑いながらその場を離れていった。

「さっきのところだけ貰っていいですか?」
「少々お待ちを」

雨月はカチカチとマウスを動かして映像を巻き戻す。志摩の話によれば、彼らは西武蔵野署管内で頻発しているいたずら通報の犯人らしい。画面の印刷を選択して、複合機から出てきた印刷物を志摩に渡せば丁寧なお礼が返ってくる。ふとあることが気になった雨月は用紙を掴んだまま軽く引いた。

「え、嫌がらせですか?」
「志摩さんって何で敬語なんスか。俺、こんななのに」
「…自覚あったんですね」
「この歳で無かったら流石にヤバいっス」

ケラケラと笑い、雨月はパッとその手を離す。

「タメでいいっスよ。ついでに名前も呼び捨てでおなしゃす」
「あー…。でも、自分はコレがいいので」
「俺、年下っスよ?」
「年齢は関係ないですよ」
「階級も下」
「すぐ追い抜くでしょう?」
「むぅ…。志摩さん、意地っ張りっスね」

じとりと目を細めてむくれる姿は幼さに拍車がかかる。雨月は決して童顔ではない。だが、年相応に見えるかと云われると返答に困る。志摩が思うに彼は只々、"若い"のだ。

「俺、志摩さんと仲良くなりたいんスけど」

ゆえに雨月の言葉は潔く澄んでいて、ストレス無く告げられる感情表現と晴れやかではきはきとした物言いは、まるでボーガンの矢を連想させる。心臓を射られたような衝撃と威力を振るって他人の心に痛いほど鋭く突き刺さる。第4機捜だと陣馬と伊吹がよく撃ち抜かれていた。観察力に優れ、二人ほど単純でない志摩は、雨月に『仲良くなりたい』と告げられても大して動揺はせず、にっこりと微笑んで揚々と一言返すことが出来た。

「光栄です」
「…もういいっス。タメでいいとか仲良くなりたいとか、何様だっつー話っスよね。さーせんした。忘れてください」

大人な対応の志摩にすっかりいじけしまった雨月は、背中を丸めて席に着く。赤く光るヘッドホンを装着して「また何かあったら言ってつかぁーさい」と中断していた仕事に戻る彼の後ろ姿は哀愁が漂っていた。拗ねて気を落とす彼を見て、志摩は少しいたずらが過ぎたかと反省する。そして、ここに来る前から渡そうと決めていた飴玉を雨月のデスクにコロコロと転がした。

「良かったら。いつも助かってます」

それは伊吹が買い溜めて『これ、マジでめちゃくちゃ美味しいから志摩も食べて!』と押し付けてきたフルーツキャンディだった。驚いた雨月はヘッドホンを外して志摩を見上げる。こんなものは子供騙しだと、幾ら何でも通じないだろうと志摩は思っていた。しかし、雨月は満面の笑みで飛びつくように抱き着いてきた。流石の志摩もそれには反応が遅れて慌てて抵抗する。

「ッ、ちょっと!?」
「志摩さんのそういうとこ、ホント大好きっス!優しさが沁みる!マジ沼!鬼推せる!もっと雑に扱われたい!」
「何言って…、いや、先に離れて!今すぐ!変な目で見られてるから!」
「シビあこっス〜!釣れないとこがまた良い!好き!かっこいい!」
「……〜っああ!くそ!」

めちゃくちゃ動揺した挙句、滅多刺しにされた志摩は、余計な事をしなければよかったと悔やんだ。


END
 

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