女子高生探偵
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部屋に入ると聞き覚えのある声がして私は眉を潜めた。声が聞こえるのはリビングからで、そのドアに見覚えのあるシルエットが映り込んだ。私はあまり上品とは言えない勢いでリビングのドアを開け放ち、その中央に立つ人物に詰め寄った。
「おぉ、雨月君、来てたのか!」
こちらの気も知らずに呑気な声を上げる男を殴ってやりたいとさえ思った。だが、そんな事をすれば私が公務執行妨害で逮捕されてしまう。だから私は言葉の暴力を振るった。
「折角来たのに事件解決ってどういう事ですか」
「え?あはは…いやぁ、その」
「私はもうお払い箱ですか。邪魔者ですか。役立たずですか」
「いや、断じてそんな事は…!実は、毛利君が現場に居てな。彼が解決してくれたんだよ」
「毛利…?」
そういえば、高木刑事が話していた名前もそんなだったような…。
事件を横取りした探偵はまだここに居るのだろうか。広々としたリビングを見渡すと、事件関係者と思われる男女(内、子ども一人)が不思議そうな眼差しで私を見ていた。
ただひとり、寝ているちょび髭のおじさんを除いて。
「………」
「あー…あれが毛利君だよ。眠りの小五郎なんて言われている、君と同じ探偵だ」
「一緒にしないでください」
「あっ!ちょっと、雨月君!?」
目暮警部の呼びかけを無視して、私はイビキをかいて眠る男の前に立った。
この距離でもはっきりとわかる煙草の臭い。きっちり締まったネクタイにシワの無いシャツ、スーツ、ヘアスタイル、顔、首、手…。私は淡々と男を観察していた。
ちらりと視線を外すと、その場に立ち尽くした私を不安そうに見つめる事件関係者。中でも、高校生くらいの女学生と小学校低学年くらいの男の子は警戒心を解くことなく、今にも何かされるのではないかと恐怖の色を浮かべている。
なるほど、親子か。
一発殴ってやりたかったけど仕方がない。
「目暮警部」
「何かね」
「次は私を呼んでください。誰よりも先に…」
「あぁ、分かった。そうしよう」
眠る男を再度一瞥して、事件現場を後にした。
フローリングに残された確かな証拠に苦虫を潰す。
あれは殺人じゃない。あの男の推理通り、自殺だ。
「あーもう…イライラする」
帰ってゲームの続きをしよう。そう気持ちを切り替えてマンションを出た途端、事件を嗅ぎつけて集まったマスコミに取り囲まれる私。ごちゃごちゃ喋る記者と向けられるフラッシュに目が眩む。
「毛利探偵と勝負して負けたって本当ですか!?」
本当、お前等ふざけるなよ。
end
『アイドル密室殺人事件』が起きた時の話。数多ある事件の中でも自殺で事件解決はレアケースなので、出逢いのシーンで使用したかった。