女子高生探偵

□FILE.19
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「すみません…、あの…」
「…………」
「あの、すみません…っ!」
「…?」

下校する学生の波に乗って街を歩いていると、背後から呼び止める声が聞こえた。振り返ると真っ白いセーラー服を着た女学生が立っていて、私はその制服とリボンの色から米花高校の1年生だと判断する。

「私ですか?」
「はい!えっと…雨月さん、ですよね?女子高生探偵の」
「…ええ、そうですけど」
「あなたにお願いがあるんですっ!!」
「ちょ、」

彼女は目に涙を滲ませて、切羽詰まった様子で私の手を取った。

「工藤さん、工藤新一さんに会わせてください!」
「は?工藤…?」
「お願いします!早く工藤さんに会わないと、このままじゃ…」

逃がすまいと掴む彼女の手はカタカタと小刻みに震え、指先の方は熱を失い完全に冷え切っていた。極度の緊張感や不安感を抱いていることがその手を介して伝わってくる。…只事じゃなさそうだ。私は、自分の直感を信じて彼女の話を聞くことにした。

しかし、いざ話を聞いてみるとどうだろうか。

「…あなたは、私の事を馬鹿にしてるんですか?」
「え?」

キョトンと毒気ない顔で惚ける女学生…野々村量子さんは、私の発言をまるで理解していなかった。今思えば、第一声から可笑しかったのだ。

「守ちゃんが誘拐されたの」

赤木英雄とは幼い頃からの付き合いで、所謂幼馴染の関係にあった。彼女は、4歳年上の英雄を実の兄のように敬慕し信頼を寄せており、彼もまた彼女を妹のように可愛がり大切にしてくれていたという。それを裏付ける数多のエピソードは二人の関係性や人物像をより鮮明に映し出したが事件とは無関係なので割愛する。

英雄は小中高とサッカー部に所属し、エースストライカーとして華々しく活躍していた。業界内では小学生の頃から注目されていて雑誌やスポーツ紙にインタビュー記事が掲載されたこともある。中学・高校とサッカーを続けた彼は、米花高校を全国制覇に導くという偉業を成し遂げて一躍有名となった。そして高校を卒業すると同時に『黄金のツートップ』と称された友人と共にプロ入りを果たした。今、彼は東京スピリッツに所属し、齢19歳にしてFW11番…レギュラーを務めている。

誘拐された『守ちゃん』というのは、英雄と10歳ほど年の離れた実弟だ。明るく元気な性格で、TVゲームや漫画が大好きな小学3年生である。自宅には誕生日やクリスマスに買ってもらったゲームソフトがいくつもあり、英雄のチームメイトが遊びに来ると彼らはよく一緒にゲームをして遊んでいた。守は、プロのサッカーチームで活躍する兄を自慢に思っていたそうだ。英雄が出場する試合が放映される日は必ず友達に「今日は俺の兄ちゃんが出るんだ。だから勝つのはスピリッツだぜ」と口にしていたらしい。

「誘拐だとする根拠は?」
「連絡があったんです」

今朝、量子が守の様子を見に赤木家を訪れるとそこはもぬけの殻だった。守の部屋は酷く荒らされ、リビングには『兄ちゃん、マモルを生きかえらせて』と不可思議なメモが残されていた。その異常な事態に混乱していると犯人らしき人物から守を誘拐したと連絡が入り、「警察には知らせるな」と指示されたという。

「ご両親はどうしたんですか?」
「2年前に亡くなって…今は兄弟二人で生活してるんです」
「…では、お兄さんは?」
「今日、試合なんです。遠征に出てて…」
「連絡はしたんですか?」
「はい。そしたら『俺がなんとかする』って」

彼女は泣きながら守を助ける方法を必死に考えた。そして閃いたのだ。探偵の工藤新一なら助けてくれるのではないか、と。だが、彼もまた行方知れず。そこで同じく探偵をやっている私なら工藤の居場所又は連絡先を知っているんじゃないかと探していたそうだ。

こんなの、一周回って笑ってしまう。



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