女子高生探偵

□FILE.25
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「あんた、女子高生探偵の雨月理央やろ?」

そう訊ねるのは色黒の関西人だった。パクリと口に含んだパフェスプーンを引き抜き、「そうですが…」と返事を返す。客かファンか、はたまたアンチか…後者二名の相手は嫌だなと青年の様子を伺う。すると、彼は許可無く向かいの席に座り、「工藤新一、知っとるやろ?知らんとは言わさへんぞ」と真剣な顔で問う。あぁ…またこれか。私は口直しに水を飲んだ。

「先に言っておきますが、工藤さんの居場所なら知りませんよ」
「なんやと?」
「都内で同じように探偵をやっているからと私を当てにやってくる人がいるんです。あなたもその一人だと思ったんですが…違いましたか?」
「いや、合ってるで。流石、『第二の工藤』と言われとるだけの事はあるな」
「…それとこれとは無関係です」

笑って答える青年の言葉を静かに否定する。関西人の来訪は初めてだが、事例が多過ぎて推理を必要としないだけだ。工藤と聞けば答えは一つ、この程度のことは眠っていたって分かる。

「彼には会ったことがないのでお答え出来ることは何もありません。どうぞお引き取りを」

これ以上私と居ても無駄である事を伝え、フルーツを掬って口に運び入れる。スプーンがコーンフレークの層に辿り着いた。ドロドロに溶けたアイスと混ざり合い、サクサクの部分とふやけた部分の食感を口の中で楽しむ。そんな私を見つめる視線…他の誰でもない、目の前に座っている青年のものだ。

「…まだ何かあるんですか?」

何が面白いのか、青年は突然、声高に笑い出した。瞳に涙まで浮かべ噎せ笑うその反応がどうにも癪に障って、私は「なんですか」と苛立ちを隠す事なくぶつけた。思いの外、冷めた低い声が出た。

「いや、すまんな。噂通りやったからつい笑ってもうたわ」

彼は息を整えながら指先で涙を拭うが、それでも笑い足りないのか、くつくつと喉を鳴らす。どうせマスコミが流したろくでもない噂なんだろうが、あまりにも笑うのでどんな噂なのか少し気になった。私は悶々とした気持ちでパフェを食べ、完食した。『食事』は済んだ。帰ろう。空になった容器に両手を合わせて席を立ち、伝票を手に取ったその時、「ちょー待てや、雨月」と青年に腕を掴まれ引き止められた。私は喉まで出かけた悲鳴を飲み込む。

「…離してくれませんか」
「いーや、離さんで。こっちの話は終わっとらんのやから」
「工藤を見つけたいのなら他所を当たってください。人探しは専門外です」
「工藤はもうええねん!それより、ホンマに頼みたいことがあるんや!!」

それは真剣というより必死だった。私はため息を吐いて席に戻る。すると掴まれていた腕が解放された。が、今度は手を握られて、ピシリと体が硬直するのが分かった。そして彼は言う。

「頼む!道に迷ったんや、助けてくれ!!」

…仕方がないので、その青年を交番に連れて行った。これで用は済んだと別れを告げると何故か彼に怒鳴られた。私は、はてと首を傾げる。

「警察はお嫌いですか?」
「ちゃうわ、ボケ!雨月に道案内を頼んだんや!」
「そんなことを頼まれた覚えはないです」
「常識的に考えてそうなるやろ!」
「常識的に考えて迷子は交番です」
「だあああああ!頼む、雨月、この通りや。オレを帝丹高校まで案内してくれ、な?な?」
「ちょっ…やめ」

彼は私の肩を掴むとガクガクと前後に揺さ振った。脳が揺れて視界が霞む。私は気持ち悪さに負けて降参した。

「っ…分かった!分かりましたから!!」
「ホンマか!!流石雨月や、ほな案内頼むでー!」
「…うぅ、くそ」

堪らず、悪態をついた。



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