女子高生探偵

□FILE.25
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帝丹高校に着くなり、彼は、「工藤、どこやー!!」と大声で叫んだ。私は恥ずかしさのあまり顔を覆う。余所者が来た、それだけで生徒の注目を集めるというのにこんな手法に出るなんて。下校する生徒達に笑われ、「隣の子、雨月理央さんだ」「あれって雨月じゃね?」と小声で交わされる会話に泣きたくなった。

「私、帰っていいですか…」
「何言っとるんや、雨月!自分気にならへんの、工藤の失踪と同時に現れた毛利っちゅう探偵のこと!」
「は、失踪…?」

私は、聞き間違えかと彼の言葉を繰り返す。
ところが同じくして彼の言葉に反応した者がいた。

「ねぇ、今、工藤と毛利って言ったかしら?」

カチューシャで前髪を上げたボブヘアーの女子生徒は「あんた達、何者よ」と顔を顰める。誰かしらの反応を待っていた青年は嬉しそうに彼女に近付く。

「あんた、なんか知ってるんか!」
「知ってるも何も工藤君とは同じクラスだし、蘭…その毛利って探偵の娘とは親友よ」
「来たで、雨月!…って何してるんや」
「…いや、なんでもない」

彼らと同じクラスで同級生の鈴木園子さんからの情報によると、工藤は学校に来ていないらしい。「やばい事件を追ってるとかで、蘭が匿ってるんじゃないかしら」と彼女は言う。

これだから自称親友の言葉は信用ならない。

彼女の話は真っ赤な嘘だ。
毛利さんとは先日会っているし家にも行った。そこに工藤の姿はなかった。彼女の様子からして、彼に一方的に避けられているようにも見えたけれど会っていないのは明白だった。しかし、それを知らない青年は少女の言葉に耳を傾けている。

「二人に会えたらよろしく言っておいてね♡」
「おおきに。ホンマ助かったわ」

デタラメな情報を提供した少女はニンマリと口元に笑みを浮かべて颯爽と立ち去った。青年は彼女に教わった住所を手帳に書き記し、それを私に共有する。

「次の目的地はここや」
「…、分かりました」

その住所を一瞥して、私は足早に正門を抜ける。

「自分、一瞬しか見とらんけど分かるんか?」
「この辺りは一応、生活圏内ですから」



「ここです」
「ここか!」

そう言って見上げる先にあるのは『毛利探偵事務所』の文字。私は青年に向き直り、「もう用は無いですね」と問うのではなく言い切った。

「帰ります」
「何言っとんねん、ここまで来たからには最後まで付き合ってもらわんと。工藤に会ったことないなら会ってけや」

親指を立てて事務所の階段を登って行く青年にため息を吐いた。毛利さんには悪いが、彼を止めることは出来ない。ここまで来るのにエネルギーを使い過ぎた。折角補給したパフェのカロリーは全て無に帰した。三日間は生活出来ると思っていたのに。吐き出したため息に重なるように青年と毛利さんの話し声が階段に響く。揉めているようにも聞こえるその声に、私は頭を抱えた。

「あれ?お姉さん?」
「…コナン君」
「どうしたの?何かあったの?」

学校から帰宅したコナン君に話しかけられた。
風邪気味なのか、鼻声だ。

「あー…うん、関西人の男がキミの家にお邪魔してる」
「…?お姉さんは何してるの?」
「帰ろうかどうしようか悩んでる」
「寄って行ったら?蘭姉ちゃんのことだからきっと喜ぶよ」
「嫌がられるの間違いじゃなくて?」
「なんで嫌がられるの…?」
「…なんとなく」

よく分からないといった表情をするコナン君に、「ごめん。今のは忘れて」と視線を逸らす。事務所は変わらず騒がしい。

「…とりあえず、寄ってってよ」
「うん、本当にごめん。お邪魔します」



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