女子高生探偵

□FILE.33
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「服部、"シャーロキアン"だったんだ…?」
「ちゃうちゃう、工藤がそうやろ?せやからこれに参加すれば工藤に会えるんちゃうか思てな」

コーヒーに口を付けた服部は、「雨月も好きやったやろ?」と浮かれ調子なまま続けた。とんだ当て推量にひくりと顔が引き攣る。いくら工藤にご執心だからって脳内お花畑にも程がある。

「『も』って、私に工藤新一を投影しないでくれる?私は工藤じゃない」
「はあ?何ゆうてん、自分が新聞のインタビューで答えとったことやろ」
「…新聞の、インタビュー?」

まさか例の虚構記事を言っているのか。
ならば、なんとも煩わしい。私は未開封のプルタブを爪で引っ掻いた。カチン、カチン、と一定のリズムを刻み、不快感を紛らわせる。
カチン、カチン、カチン…。
すると、私の手から缶が消える。

「折角や、誘ったろ思って迎えに来たんや」
「………は?」

迎えに来た?

「え、なんで?」
「なんでって、そら好きや言うてたら誘うやろ、普通!一人で行くより二人の方が断然楽しいし‼それに雨月が一緒やと工藤に会える気がすんねん、この前みたいに」

服部は至極当然のことのように答え、ココアの飲み口を開けて寄越した。「世話の焼けるやっちゃなぁ」と笑っている。

いや、…いやいやいや。
可笑しい。あり得ない。服部の思考が理解出来ない。何故、知り合って間もない赤の他人を誘おうという考えになるのか。断られることを想定していないのか。大体、非公式な上に当選確率の低いツアーに応募する意味が分からない。こんなのは電話一本で事足りる。望む答えが得られなければ他を当たればいいだけだ。しかし、服部は、偶然にもその足で工藤を見つけた。工藤に会ったという事実は、行けば会えるという偏った思い込みをより強固なものにしてしまったのだ。

相手は、この世に存在しない透明人間だというのに…。

「雨月?」

服部に名前を呼ばれて我に返る。

…これだから、人探しは嫌なんだ。
たった一人を見つけるのに費やす時間、費用、労力が割りに合わない。最初はたくさんあった手掛かりも次第に足取りや消息が掴めなくなる。手元に残る唯一の遺留品からは何の情報も得られず空振りに終わった。あの人に逢いたい、ただそれだけなのに現実は残酷に流れてゆく。

「逆に言えば、チャンスか…」
「え?」

そうだ…、もし私に同行を断られた挙句、工藤とも再会出来なかったら。服部は感情で動く人だ。全ての事象を無視してやれ雨月のせいだ、やれ因果関係がどうだと騒ぎ立て、八つ当たりしてこないとも限らない。工藤に会えるまで半永久的に『工藤探し』に付き合わされるかもしれない。

「わかりました、一緒に行きます」
「えっ!うそ、ホンマに?ホンマに一緒に行ってくれるんか⁉」
「但し、条件が3つある」

わっと勢いよく立ち上がる服部の手からココアを奪い取った。

「一つ、望まぬ結果でも私に一切の責任を負わせないこと。二つ、私が専門としない仕事は依頼しないこと。三つ、今後私に会いに来る時は必ず一報入れること」
「なんや、条件ゆうても別にフツーやな?」
「明確にしておかないと後々揉めるでしょう?」
「大変やな!まあオレは話の通じる男やから、なんぼ条件付けられても飲んだるけどな!」
「…では、ご一緒させていただきます」

彼の返事を受けて合意の証としてココアを頂く。この場でお互いの連絡先も交換した。

「よっしゃ!ほんなら早よ帰って支度せな。送迎バスが20時なんや。まだ2時間あるゆうても女は準備に時間かかるさかい」
「ん…?」

画面操作する手を休め、服部の言葉に制止をかける。

「さっき、明日って…」
「ああ、初版本貰えるっちゅうクイズ大会は明日やねんけど、ツアーは今日からの二泊三日やで」
「………」

数時間後には判明する結果に対して3日以上の拘束を要するなんて…

「…効率が悪過ぎる。やっぱり、パス」
「ちょ、え、待って⁉急にどないしたん?」

時間は限られているというのに。
72時間を無駄にする服部の気が知れない。



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