女子高生探偵
□FILE.44
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「え、怪盗、ですか…?」
カチャリと音を立てて紅茶の入ったカップをソーサーに戻す。目の前に座った毛利さんの友人、鈴木園子さんはこくりと頷いた。
毛利さんから『会わせたい人がいる』と連絡を貰い、待ち合わせのカフェに来てみると、そこには毛利さんともう一人、見知らぬ女性の姿があった。カチューシャで前髪を上げ、おでこを出したその女性は毛利さんの親友で、なんと鈴木財閥の御令嬢だという。そんな人と私を会わせてどうしたいのかと様子を伺っていると、どうやら仕事を依頼したいらしい。
依頼内容は、怪盗から幸運を呼ぶ真珠:漆黒の星(ブラック・スター)を守ること。正式な依頼主は彼女の父親に当たる鈴木財閥会長、鈴木史郎だ。
「これが怪盗から届いた予告状です」
そう言って鈴木さんは鞄からクリアファイルを取り出し、テーブルの上に置いた。そこには確かに怪盗から届いたと思われる予告状が入っている。しかし、予告状はビリビリに破られていて読むことが出来ない。
「…これは、元からこうだったんですか?」
「実は、父が怒って破ってしまったんです」
「なるほど。予告状に触っても?」
「どうぞ」
私は、「失礼します」と言葉を掛けてクリアファイルを手に取った。中から予告状を取り出し、破れ目に沿って並び替える。そして浮かび上がった文章を黙読した。
April fool
月が二人を分かつ時 漆黒の星の名の下に
波にいざなわれて 我は参上する 怪盗
「予告状の切れ端はこれで全てですか?」
「分かりません、一応、全部拾ったつもりなんですが…」
「そうですか…」
…怪盗と聞くと、ある人物を思い出す。
その人はロンドンに留学していて今は日本にいないのだが、彼がよく怪盗の話をしていた。私はあまり興味が無く適当に聞き流していたけれど、きちんと話を聞いておけばよかった、とボロボロになった予告状を見て思った。
「…申し訳ありませんが、この依頼はお断りさせていただきます」
ファイルに予告状を戻しながらそう言い放つと、二人は驚きの声を上げた。鈴木さんは身を乗り出して「どうしてですか!」と責めるように聞く。
「怪盗は専門外なんです」
「専門外って…」
鈴木さんは腑に落ちないと表情を曇らせた。依頼内容も聞いて、予告状も見ておいて失礼だということは分かっている。しかし、この怪盗が、もし彼の言っていた怪盗だとしたら…。
知識のない私が手を出すのは非常に危険なのである。
「この予告状はお返しします」
力無く座る鈴木さんにファイルを渡す。だが、彼女は受け取ろうとはしなかった。鈴木さんの隣に座る毛利さんが気を遣って「園子…」と呼びかけるが俯いたままだ。ちらりと私の顔色を伺う毛利さん。そんな風に見られても受けられないものは受けられない。
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