女子高生探偵

□FILE.44
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ふぅ…と息を吐いてファイルを自分の方に向けた。暗号の解読くらいはしてあげるか。
しかし、次の瞬間、バァンッ!と大きな音が鳴った。カップの中の紅茶が溢れ、突然の事に私は目を丸くする。何事かと周囲の注目を集める中、俯いて座っていた筈の鈴木さんがテーブルに両手を付いて立っていた。そして私の手からクリアファイルを奪い取るとキッと睨み付ける。

「蘭が言うから期待してたのに!」
「え…」
「怪盗は専門外!?ふざけんじゃないわよ!あんたなんかに…あんたなんかに依頼しようと思った私が馬鹿だったわ‼」
「ちょっ、待ってよ!園子!?」

毛利さんが鈴木さんを引き止めるが、彼女は大事そうにファイルを抱えてお店を飛び出していった。荷物を置いていった鈴木さんと、放心状態でいる私との間で右往左往する毛利さん。

「あの、雨月さん…」

声を掛けられてハッとする。私は頭を抱え、毛利さんに彼女を追い掛けるよう促す。「でも…」「いいですから」私を気遣おうとする毛利さんを拒絶する。

「早く行かないと追い付けなくなりますよ。外は雨ですし」

今日は朝から雨が降っていた。今は小雨だがこの後、更に天気が崩れる恐れもある。それに…鈴木財閥からの依頼を断って怒鳴られた挙句、その御令嬢に風邪を引かせたなんて噂が広がっては堪ったものじゃない。今、この場にいる者全員が私達を見ている。早いところ、私もこの場を立ち去りたいのだ。
溢れた紅茶をおしぼりで拭きながらテーブルを片付ける。

「本当にごめんなさい!園子があんなに怒るなんて、私…。あの、また連絡します!」

そう言い残し、毛利さんは忙しなくお店を後にした。私もすぐに席を立つ。鬱陶しい視線を肌に感じながら、伝票を持ってレジに出した。

「お…お会計は、1,440円です…」

ビクビクしながら言葉を発する店員に2,000円渡し、「お釣りはいりません」と店を出た。強風が吹いて雨粒を全身に浴びる。…雨脚が酷くなる前に家に帰ろう。店員の呼び止める声が背後から聞こえるが私は無視して歩き出した。



冷えた体をお風呂で温めながら今日の出来事を振り返る。私が鈴木さんに怒鳴られた理由…それはきっと、彼女のプライドを傷付けたからだ。鈴木財閥というブランドを背負った彼女はたくさんの人に可愛がられて生きてきたのだろう。一見、お嬢様らしくはなかったけれど、彼女の中には鈴木財閥の御令嬢というレッテルが確実に存在するのだ。そのレッテルを無視して依頼を断った私に彼女は腹を立てた。
そう考えるのが妥当だろう。しかし、少々、引っかかる。依頼主は鈴木財閥会長だと言っていたのに、何故、彼女はあれほどまでに私に怒りを露わにしたのか。それに…

『蘭が言うから期待してたのに!』
『怪盗は専門外!?ふざけんじゃないわよ!あんたなんかに…あんたなんかに依頼しようと思った私が馬鹿だったわ‼』

あの発言は、まるで自分が依頼主だと言わんばかりの台詞だ。

「もしかして…」

鈴木さんは、自分の意思で私に依頼を…?



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