女子高生探偵

□FILE.37
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米花町某住所が記されたメモを片手に、私は家の前を行ったり来たりを繰り返す。本当にここで合っているのだろうか。たったそれだけの不信感から表札を何度も確認したり、家の中を覗き見たり。インターホンを押して確認しようものなら臆病な自分がひょっこりと顔を出して、それを押すことを躊躇させる。

もう今日は帰って、明日、出直そうかな…。

まだ何もしていないのに私の心は折れていた。
そうと決まれば、早いところ約束を破る上手い口実を考えなければ。

「…雨月お前、いつまでそうしてる気だよ」
「ッ、あっ!?」

ピンポーンと呼び鈴の音が響き渡る。驚いた衝撃で誤ってインターホンを鳴らしてしまった私は、あわあわと慌てふためく。挙動不審な私を呆れた顔で見上げる少年と、玄関のドアから顔を覗かせ不思議そうに見つめてくるふくよかな体型のご老人。

「えっと、阿笠さんのお宅でお間違い…」
「ねーよ」
「…ですよね」
「何をそんなに悩んでたんだ?この辺で阿笠の表札はココだけだったろ?」
「色々と思うことありまして。あ、お邪魔します…」

コナン君に先導されながら、私は阿笠宅の敷居を跨いだ。

「いらっしゃい、理央君!よく来てくれたのぉ」
「はじめまして、阿笠さん。遅くなってしまって申し訳ありません」
「構わんよ。この辺りはどこの家も作りが似通っておるし、道も入り組んでおるから迷ったじゃろう? 」
「…いえ、そういうわけでは」

穏やかな笑顔で優しく出迎えられ、私は苦笑いを零す。「ワシが天才発明家、阿笠博士じゃ」「雨月理央です」お互いに握手を交わし、私は案内されるままリビングのソファに腰掛けた。

リビングは自然光を効率良く取り入れるためか、ドーム状に作られたガラス瓦の屋根で、より広々とした空間を演出していた。今日のように天気が良いと電気を点けなくても部屋中が明るく、赤みがかったオレンジ色のカーペットは反射光に温かみをプラスしている。

「今日はお招きいただきありがとうございます。これ、つまらないものですが…」

ぺこりと頭を下げて紙袋ごと手土産を差し出せば、阿笠さんは子供のようにはしゃぎ、小躍りしながらそれを受け取った。

「おい、みっともねーぞ、博士!」
「知らんのか、新一君!このクッキーはただのクッキーじゃない!そうじゃろ、理央君!?」
「阿笠さん、ご存知なんですね?なんでも入手するのに3ヶ月はかかる、今人気のクッキーだそうです。イギリス製なので厳密にはクッキーじゃなくてビスケットと呼ぶものですけど…」
「そんな物をわざわざ…!感謝しても仕切れんわい‼」

「折角じゃ、紅茶でも淹れるかのぉ」と部屋の中心にある大黒柱の下、カウンター式キッチンに向かう阿笠さん。立派な大黒柱を前にするとそれなりに身長のある彼も小さく見えた。

「…なんですか?」

真向かいから嫌な視線を感じ、明後日の方向を見ながら問う。

「『なんですか』はこっちの台詞だぜ。なんだよ、その余所余所しい態度は。こっち見ろ」
「いやぁー…。なんか意識したら、ちょっと…」
「前はそんなことなかったじゃねーか!」
「あの時はまだ脳の処理が追い付いてなくて…」

服部によって【江戸川コナン=工藤新一】と証明されてから、私は混乱からどう接していいのか分からず、彼を避けていた。全くの別人と認識して慣れ親しんでいた相手が、突然、工藤新一という得体の知れない存在になったのだ。人見知りにもなる。しかも同学年の男子高校生を子供扱いして、可愛がっていたことを考えると恥ずかしくて…。

「なんていうか、ギャップがありますよね?第一印象と違います」
「…それは雨月も同じだからな?」
「うぅ、『理央姉ちゃん』って呼ばれていたかった…」
「人前ではそう呼ぶって!」
「私はなんて呼べばいいですか?工藤さん?工藤くん?」
「別に…呼びやすいように呼んでくれればいいよ。但し、人前では呼ぶなよ。服部みたいに」
「あれは単純にバカ」

サラッと服部の悪口をいうとコナン君はハハッと笑った。年相応の笑顔に癒されるが、中身は高校生なんだよな、と複雑な感情を抱く。



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