女子高生探偵

□FILE.37
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「それは…災難、だったね?」

阿笠さんが用意してくれた紅茶をカップに注ぎながら、当たり障りのない言葉を使って相槌を打つ。私からすれば全て笑い話なのだが、毛利さんに正体がバレそうになった話や実の母親に誘拐された話を語る本人は命懸けであったために至って真剣で…、コナン君は不服そうにビスケットを食べた。

手土産のアソートには、プレーンとチョコチップの二種類が入っていた。彼はチョコチップ入りがお気に召したようで、そればかり食べて口の周りをチョコレートで汚していた。

…やっぱりただの小学生なのでは?

私は彼の口元をテッシュで拭う。

「最善は尽くすよ」
「へ?」
「キミが工藤新一だとバレないように、ネッ」

抵抗もせず、されるがままなコナン君の額を指で弾いた。

「イテッ!何だよ、急に‼」
「すでに身を以て経験したと思うけど!キミはまず自分の目立つ行動を自重するべきだよ。普段から探偵ゴッコなんてうそぶいて皆の前で推理してるでしょ。そんなことを続けていたら、今に"第二、第三の服部"が現れるよ」

服部は最初から『工藤の失踪と同時に現れた毛利探偵が気になる』と言っていた。毛利さんが行方知れずの工藤と子どもらしからぬコナン君に対して疑いを抱くのは、至極当然なことなのだ。

「『不可能を消去して、最後に残ったものが如何に奇妙なことであっても、それが真実となる』…まぁ、どうせ言っても聞かないだろうけど、一応、忠告しておくよ」
「お、おぉ…」
「流石、理央君。ホームズの台詞を引用して説得するとは。新一君をよく理解しておるのー」

こくこくと頷いた阿笠さんは、以前、コナン君に危機感を持ってもらおうと彼の実の両親と共に『江戸川コナン誘拐事件』を企て、実行したことがあると話してくれた。それぞれが全くの別人に変装して、2階建ての廃ビルや杯戸ホテルの一室を借りて一芝居を打ったそうだ。…先刻、母親に誘拐された話を聞かされたばかりだったのでその常習性に驚いたが、連れ去られるコナン君もコナン君だなと思った。

「阿笠さんは…」
「理央君さえ良ければ、"ハカセ"と呼んでもらいたいんじゃが」
「あ、じゃあ阿笠ハカセで…。阿笠博士はコナン君を戻してあげられないんですか?」
「無理なんじゃ。薬の成分が分からんことには手の施しようがない…。じゃが、無茶ばかりする新一君を見てたら何かしてあげたくてのー…」

そういって阿笠博士は、いそいそと机の上に小道具を並べていく。眼鏡やピンバッチ、腕時計、蝶ネクタイ、サスペンダー、そして最後にお弁当箱を取り出して、「ここにある発明品は全部、小さくなった新一君の為にワシが作ったんじゃ!」と得意げに披露した。

「わぁー…」

正しくそれは、孫におもちゃを買い与えるおじいちゃんの図であった。博士は自身の手掛けた発明品について熱く語り出し、変声機の利便性の高さについて話が膨らむと、コナン君は私と初めて会った『アイドル密室殺人事件』のことを話題に上げた。この時はまだ【腕時計型麻酔銃】も無く、【蝶ネクタイ型変声機】も受け取ったばかりで使い慣れておらず、室内にあった吸殻入れで毛利探偵を気絶させて、別人の声色で毛利探偵に成りすましていたそうだ。

「……へぇ」

つまり、当初他殺と思われた事件を被害者の自殺と推理したのは、毛利探偵ではなくコナン君だった、と…。それが事実なら確認するまでもないなと私はビスケットに手を付ける。服部が調べ上げた通り、工藤新一の体が縮んでから今に至るまで毛利探偵が解決したとされる事件は、恐らく全て彼の手柄なのだろう。

ともすれば、先の忠告は無意味だ。
大人しく…なんて、出来ない。きっと。



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