女子高生探偵

□FILE.50
1ページ/3ページ



「わぁ〜、すごいっ!!」

毛利さんのお願いで工藤宅の掃除に訪れた私は、書斎に足を踏み入れて感嘆の声を上げた。天井の高さまである本棚を眺め、ずらりと並んだたくさんの本を見て、私はうっとりする。

「ちょっと、早く中に入ってよ」

不機嫌そうな声にハッとして、ドアの前で立ち止まっていた私はササッと端に寄って、バケツや箒を持って来た鈴木さんを中へ通す。その後ろを苦笑いした毛利さんが続く。そのまた後ろを続くコナン君を私は引き止めた。

「ねぇ、あれでも本当に嫌われてないって言い切れる?」
「雨月、おめー、何かしたんじゃねーか?」
「…何もしてないよ」

依頼を断った以外は。そう小さく呟くと、コナン君はため息を吐いて、「早く仲直りしろよ」と毛利さんの元へ行ってしまった。

毛利さんから連絡を受けて待ち合わせ場所で待っていると、そこに現れたのは毛利さんとコナン君…そして、鈴木さんだった。私は目を見張った。そして彼女も私の顔を見てぐっと眉間に皺を寄せ、あからさまに嫌な顔をした。
それからここに来るまで一言も喋らず(毛利さんとは話している)、今日はじめて聞いた彼女の声は、先ほどのキツい一言であった。

「毛利さん、私は何をすれば…?」
「あ、じゃあ、雨月さんは2階の掃除をお願いします」
「はい」

ハタキや雑巾を片手に梯子を登っていく。1階の本棚は小説や漫画などが並んでいたが、2階の本棚には専門書が多く、梯子を登り切ると肺いっぱいに空気を吸い込んだ。
紙の匂い。インクの匂い。木の匂い。太陽の匂い。埃の匂い。そして…

「これが、工藤家の香り……って、違う違う」

これじゃあ、私、変態みたいじゃないか。
ぶんぶんと頭から雑念を振り払い、端からハタキで埃を落としていく。

「……、…夏休み…、…いいのに………」
「……ね…、…………一人じゃ……から……」

1階に居る二人の声が聞こえる。
本当に鈴木さんは毛利さんとしか話さないなぁ…と埃を落としながら私は物思いに耽る。コナン君は私に、早く仲直りするよう言ったけれど、別に喧嘩しているワケではないのだ。そもそも、私と鈴木さんは仲が良かったワケではない。毛利さんの紹介があって私達は出会ったに過ぎない。それも依頼人と探偵の関係で。
私が鈴木さんの依頼を断ったあの時から…。鈴木さんが私を嫌っていることは、毛利さんが一番よく分かっているはずなのに。
どうして彼女は、今日、私と鈴木さんを引き合せるような事をしたのだろう。鈴木さんの様子からして、毛利さんのサプライズだったみたいだけれど…やってはいけない方のサプライズだったということに、彼女は気付いているのだろうか。

「ちょ、ちょっと勝手に決めつけないでよ!」

下から毛利さんの声が響く。作業を中断し、1階を覗けば、何やら楽しげにお喋りしていた。あれが二人の嘘偽りない姿なんだな…と、笑う彼女達を見つめていたら、胸にツンとした痛みが生じる。
私は痛む胸にそっと手を当てて、心臓の鼓動に耳を澄ます。トクントクンと静かに刻まれるその音は、私の罪の象徴だ。私は、目的を果たすだけ。
あれは、必要のないモノだ。



次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ