女子高生探偵

□Text.04
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どこの学校にもムードメーカーと呼ばれる明るくて元気な人やアイドルのように持て囃される人が存在するように、江古田高校にもそういった騒がしい人達が多くいる。「何部の誰々くんが格好いい」「何組の誰々さんが可愛い」と学年毎に上げられる人物の名前は異なるが、その中でも2年生はキャラが濃く、群を抜いて目立つようで、掲示板に掲載された校内新聞のとあるコーナーのランキングには同級生の名前が多く連なっている。私はというと、学外では『女子高校生探偵』『第二の工藤』と注目を集めているが、学内ではギークやオタクと称される地味で大人しいタイプに分類されるため、とかく名指しされることは少ない。

…だが、その一面の見出しには『あの女子高生探偵に彼氏か!?』『東京→大阪、遠距離恋愛』と勘違いも甚だしい文章がずらりと並び、いつ撮られたのか、服部と下校する私の写真も載っていた。その目はしっかりと黒で塗り潰されている。服部が校内放送で馬鹿騒ぎしたあの日からそれなりに日数が経っているのだが、これといったスクープが無いと校内新聞はゴシップ記事一色になる。私の話題の隣には、『もはや江古田高校公認!?幼馴染カップル、仲良く喧嘩しな!』『紅子サマ、先月は6人に告白されるも誰とも交際せず!』など、正直くだらなくてしょうもない内容の記事がでかでかと貼り出されていた。

「「はぁ…、…ん?」」

堪らず吐き出した溜息が誰かの物と重なり、お互いに顔を見合わせる。
隣には同級生の男の子が立っていた。

「なあ、ここに書かれてることって本当?」
「嘘だよ」
「だよな」
「…何?」
「あ、いや…!新聞部の奴ら、嘘か本当か分からない記事書くからさ!本人から嘘だって聞けて良かったなーって!」
「ふーん。まあ、そうだよね。キミの記事は本当だもんね」
「えっ!?」
「え?」

素っ頓狂な声を上げる彼に、私は変なことを言っただろうかと首を傾げる。

「黒羽、くん…だよね?2Bの」
「流石に俺のことは知ってたか…」
「…?だって同学年だし、キミと中森さんは目立つから。喧嘩してるのだってよく見るよ」

だから、この記事に書かれてることに嘘はないと思ったのだが、違うのだろうか。そう尋ねると黒羽は、ガシッと私の肩を掴み、新聞記事に対して熱心に弁解し始めた。

「違う!それは雨月の勘違い!ここに書いてあることは嘘だから!俺と青子は幼馴染なだけで!付き合ってないし、あれは喧嘩っつーか、アイツが口うるさいからいつも口論になるだけ!青子は幼馴染で同級生ってだけ!」
「そ…そうなんだ」

別に興味ないからどうでも良いのだけれど、肩に触れる彼の手をそっと払い除け、「誤解してたよ、ごめん」と謝罪する。黒羽は訝しげに少しムッとした後、「雨月でもこういうの鵜呑みにするんだな」と口にした。

「信じてたというか、平和で学生らしいなと思ってたよ」
「事件だなんだと忙しいもんな、女子高校生探偵サマは」
「いや、どうかな。さほど忙しくはないんだ。ただ、コイツが来ると死ぬ程、疲れる」

服部に出会ってからいろんなことがあったとこの数ヶ月のことをしみじみ思い出す。振り回されてばかりだった工藤探しが終了した後も連絡を寄越し、自分の用事に付き合わせようとしたり、地元の大阪を案内してくれたり。と、私が物思いに耽ていると黒羽に名前を呼ばれる。

「ぶっちゃけ、この関西人って誰なんだ?雨月とどういう関係?」

私は少し悩んだ。服部との関係は曖昧だ。コナン君、否、工藤のように彼のライバルでもなければ、厚い信頼関係を築いているわけでもない。友達と言うには服部という男を知らな過ぎるが、知り合いや顔見知りと言った遠い他人でもなかった。何故なら、彼は確かに私の命を救った人物なのだ。そこまで説明する必要はないと導き出した答えは、単純明快な『同業者』だった。

「同業者?」
「そう、関西では名の知れた高校生探偵なんだ」
「へぇー…」

せめて学校では皆と変わらない、平凡な日常を過ごしたかった。私は静かに溜息を溢し、教室に戻る旨を伝えて廊下を歩き出す。だが、黒羽はその場から動くことなく、じっと掲示板を見つめていた。



end

折角、江古田高校に通っているのに学生生活の様子が無いのは寂しいと思い、オリジナルをひとつ。『まじっく怪盗』の話を書くと混乱するので、あくまで『名探偵コナン』としてストーリーを展開します。英国紳士の坊ちゃんも出したかったけど本編の出番がまだまだ、うんと先だったので辞めました。でも、いつかは転校してくるのでその話を挟めたら挟みたいです。すぐ英国に帰ってしまうんですけどネ…。
 

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