女子高生探偵

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「影の計画師?そう言うたらガキの頃、オヤジに聞いた事あるな…。そんな男が居ったって」

文字通り、服部を叩き起こした私達は、船内を移動しながら毛利探偵から詳しい事情を聞いた。『影の計画師』…本名を叶 才三といい、20年前に起きた4億円強殺事件の主犯だそうだ。計画は顕密で隙が無く、修羅の如き手際の良さで警察を煙に巻き、そのヤマごとに仲間を変える一匹狼だった。犯行中、誰も傷付けないのが彼の特徴だったが、20年前のその事件で銀行員を一人殺害してしまい、それ以来、ぱったりと姿を消したのだという。

「そんな奴が俺らの隣の部屋で寝てたんか?」
「ああ、入ったらもぬけの殻で…今、鮫崎さんが捜してるよ」

鮫崎さんとは先程の強面の男性だ。何でも彼は元捜査一課の警視で毛利探偵の昔の上司らしい。私が彼らのやり取りに感じた違和感の答えはこれだった。二人の間に縦社会の規律を見たのだ。

「けど、変やなぁ。確かそいつ、大分前に死んだてオヤジ言うてたで。銃痕と血ィが付いたそいつの上着がどっかの浜に打ち上げられたて」
「奴は死んじゃいねーぜ」

振り返れば、鮫崎さんが立っていた。

「あの上着は警察を振り切るための罠だ。奴はあんなところで簡単にくたばるようなタマじゃねえぜ、兄ちゃん。どうせ今頃、どこかであの時の仲間と札束を数えているところだろうと思っていたが、まさかこの船に乗り合わせていたとはな…」
「しかし、あの事件は5年前に時効ですから見つけたとしても…」
「アホ、忘れたんか」
「殺人の時効は15年ですが、民事の裁判では20年経たないと時効になりません。お金を返せと言われたら返さなければいけないんですよ」
「ああ、残念ながら指名手配をくらった叶の時効は切れてるが、他の三人の仲間のは成立してねえ…」

叶を捕まえて仲間の居所を吐かせればお金は取り戻せる。もしかしたら、この船に仲間も乗っているかもしれないと鮫崎さんは言う。しかも、その事件があった20年前の10月9日は、明日…今夜0時をもって、彼らは晴れて逃亡生活から解放される。

「じゃあ、あと二時間ちょっとで…」
「あれー、雨月さんじゃない?」

するとその時、重い空気を一変する、明るい声が廊下に響く。軽やかな足取りで駆け寄ってきた彼女は、「雨月さんもこの船に乗ってたんですね!」と満面の笑みを浮かべる。

「えぇ、まぁ…」
「何や、歯切れ悪い返事しよるな」
「わっ、服部君もいる!和葉ちゃんも一緒?」
「何でそこでアイツが出て来んねん。アイツはアイツ、俺は俺。関係ないやろ。いっつも仲ええお前らと一緒にすんな!」
「え?」
「お前ら?」

私は肘で服部をど突く。
下の方でコナン君が小さく慌てていた。

「あ、そやからホンマ仲のええ親子やっちゅう意味や!」
「大きなお世話だよ。そういうお前らこそ、いっつも一緒に居るじゃねえか。何だ、そういう仲か?」
「やめて下さいよ、毛利探偵。私達はただの同業者ですよ」
「せやせや、下衆な詮索すんなや」
「お、おぅ…」

毛利探偵は変な顔をしていた。

「それより、見つかったんですか?影のなんとかっておじさん」
「いや…これからまた、毛利と一緒に捜すところだ」
「じゃあ、私達はレストランにいるから…」

そう言って毛利さんは服部と私とコナン君の背中を押して歩き出す。自分達も捜すのを手伝うと抵抗するコナン君と服部に、毛利さんは、危ない人が潜んでいるのに一人で部屋にいろと言うのかと剥れる。

「そやけどなー…」
「ねえ、今は元警察組に任せて夕食食べに行こ。私、朝から何も食べてないし、服部もずっと寝てたからお腹空いたでしょ」

すると、服部とコナン君は、「はぁー…」と深い溜息を吐いた。

「平次兄ちゃん、理央姉ちゃんがまた倒れたら困るからレストラン行こう?」
「…せやな、そうしよ」

そう言いつつも二人は不満があるようで、だらだらと廊下を歩いていた。私はそんな彼らに小言を垂れながらついて行く。

「じゃあ、待ってるからね、お父さん!」
「おう!」

毛利探偵の返事を聞いて駆け出した毛利さんは、勢いを殺さず、そのまま私の右腕に抱き着いた。ドンッと小さな衝撃を受け、密着する彼女に驚き、私は情けない声を上げそうになる。

「えへへ…雨月さん、ありがとう」

毛利さんは嬉しそうに、にこにこ笑っていた。



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