女子高生探偵

□FILE.66
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居酒屋『やまさん』の女将さんは、今でも信じられないといった様子で事件当日の話を語ってくれた。東田さんが泥酔状態にあった事や村西さんに反抗する意気込み、友人の北川さんに連れられて帰った事、三人が常連客であった事等々…。

「村西さんは東京スピリッツのファンで、東田さんはアンチスピリッツ!とことん相性が悪かったみたい…」
「それから?それから?」
「コ、コラ!何聞いてんだ!?」
「何ってちょっとした世間話ですよ」
「雨月さんまで…。すみません、もう帰りますから…」
「あ、家に電話しないとママが心配しますから」
「俺も!」
「私も!」

事件解決の為とはいえ、子守まで引き受ける事になってしまった高木刑事は、明日までに真犯人を挙げられる訳がないと頭を抱える。

「高木刑事、次は事件現場へ行ってみましょう」
「…その前に親御さんに連絡して子供達をお家に帰さないと」
「「「えぇー!」」」

途端、子供達からブーイングを受ける。

「真犯人を捕まえるまで帰りませんよ!」
「そうは言ってもねー…」
「ねえ、阿笠博士に連絡させてくれない?」
「え、阿笠博士に?良いけど…」

コナン君はニッと白い歯を見せて笑った。彼が阿笠博士と電話で話している間、私は改めて北川さんの事を聞いた。

「さっき、お店から出て行った男の人が北川さんなんですね」
「そうだよ」
「追い掛けて行って、話は聞けたんですか?」
「いいや。上司が友人に殺されてショックを受けてるから暫くそっとしておいてくれって…」

とてもそんな風には見えなかったな…。
彼の座っていた席には、軽い食事と徳利が一本残されていた。相も変わらず、彼らとの行き着けの居酒屋に通い、食事もお酒も程良く楽しんだといった様子だった。北川さんは死体の第一発見者だった。東田さんや村西さんと同じ会社の社員で、事件翌日、二人がなかなか出社して来ないから部屋の鍵を管理人さんに開けて貰い、そこで管理人さんと二人で死体を発見したらしい。

電話を終え、受話器を置いたコナン君に高木刑事はどうだったと問う。

「阿笠さん、いいって言ってたかい?」
「うん。なんか明日、杯戸町で花火上げるイベントがあるって燃えてたよ」
「花火?そんなイベントあったかなぁ?」
「さぁ、子供達のアリバイは作れたんですから、村西さんの部屋に行きましょう」
「理央姉ちゃんは連絡しなくていいの?」
「私は皆と違って、『今日は帰れないかも』って伝えて家を出て来たから」

困惑した顔で私を見る高木刑事に笑顔を見せ、時間が勿体無いから早く行こうとその背中を押した。



「いやー、まさか本物の理央ちゃんが事件を調べに来るとは…。ウチの下の息子が大ファンでね、本人に言うのは難だけど、理央ちゃんの記事は全部スクラップにして保存してるんだよ」
「そうなんですか。なんだか恥ずかしいですね…」
「けど、こんな時間に刑事さんと事件の捜査に来るなんて。昼間に来ていた刑事さん達が帰ったばかりだっていうのに」
「あ、いや、調べ残した事がありまして…」

管理人さんは504号室の部屋の鍵を開けながら、「その坊や達は?」と問う。

「社会科見学ですよ!」
「刑事さんのお仕事見て学校で発表するの!」
「ああ、『働くおじさん』ってヤツだな!」
「じゃあ、鍵は後で管理人室に持って行きますので…」

そう言って高木刑事がドアを開けると真っ先に子供達が部屋に飛び込む。勝手に物に触ったらダメだと注意する彼に対して、子供達は手袋をはめた手を見せる。

「大丈夫だよ、ほら!」
「さっき高木刑事が帽子を買った時に一緒に手袋も買ったんです」
「コナン君に言われてね!」
「あ、そう…」
「高木刑事」
「何?」
「左手で良いので手袋、貸してください」
「…あ、うん」

高木刑事から借りた手袋を左手にはめ、私は部屋の中を見て回る。玄関から始まり、台所やお風呂、トイレ、リビング、クローゼット、そして最後にベランダ…。ふんわりとカーテンが揺れる。開け放った窓から吹き抜ける風が心地良い。

「警察の数、増えてるわね」
「ホントだー…」

真っ赤なランプを点灯させ、大通りの交差点をパトカーが列を成して走っていくのが見えた。ベランダの手すりの隙間から街を眺める少女達を見つめていると、茶髪の女の子…灰原 哀ちゃんがパッと振り返り、目が合った。ずっと怯えて逃げ回っていた少女は、自身の立ち位置と私の立ち位置を確認し、顔色を変える。きっと逃げ場を失ったとでも思っているのだろう。ベランダの窓辺に立つ私は、さり気無く、道を開けてベランダに降り立った。哀ちゃんは不満そうな顔をして、私との間に一定の距離を保ちながら、隣の吉田 歩美ちゃんを連れて部屋に戻っていった。



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