LONG STORY

□烏に反哺の考なし
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散らかり放題散らかった書類を整理して、私は机の上にスペースを作る。てきぱきと行われる片付けに先輩も口をあんぐりと開けて驚いていた。彼は今、自分の作業が中断している事に気が付いていない。

どっさりと資料が詰め込まれた箱をひとつ持ち上げて、片付いた机の上にばさりと広げる。一枚一枚、それが一体何の書類なのかを確認し、クリップやファイリングで分類していく。
巨人資料や研究データが多いこの部屋は、大切な書類が埋もれがちだ。現に今、手にしている書類は団長に提出しなければならない重要書類で、納期に半月ほど遅れを取っている。最優先とばかりに赤いボックスに流し入れる。

「…先輩、仕事してください」

そう声を掛ければ、ハッと気が付き、私の方に飛んで来る。

「雨月…っ!君がここに来てくれて本当に嬉しいよっ!!」
「…近いです」
「ここには誰も入りたがらないから、俺、もう胃に穴が開きそうで…うぅ…」
「お察しします。…ところで、先輩、それは?」
「ん?あぁ、これは次の壁外調査の書類だよ」
「私が届けに行きましょうか?」

すると彼は「いいよいいよ」と首を振り、この部屋の片付けを頼むと遠くを見つめる。片付けを始めたばかりではあるが、きっと彼は何年も前からここの片付けをしてきた。それでもこの有様ということは、そういうことに違いない。

「わかりました」
「帰ってきたら手伝うから。それまで一人で進めてて」
「はい、ありがとうございます」

先輩を見送り、私は作業を再開する。書庫も十分、巨人の資料があったが、ここにはそれ以上にたくさんの情報で埋もれていた。書類が提出されていないから、ここで情報がストップしてしまっている。どうにかして早くこの納期切れ書類を終わらせてもらいたいものだ。
そんなことを考えながら、私は「ふぅ…」とため息を吐く。
なんで私はここに配属されたのか。

『この世は、実力が全てだ』

実力があったから私はここにいるのだろうか?
いや、違う。そう思わずにはいられなかった。何故なら、あの人はやたらと私に執着していたからだ。自意識過剰ではなく、これは事実である。訓練施設に視察で来たあの時から、あの人は私に興味津々だった。

確かに私は、巨人について調べていた。研究レポートも書いた。あの人の資料も読み漁った。だが、それは私を食べなかった巨人を調べたかったからだ。
巨人を襲う巨人の姿を見て捕獲しようと考えたのも、エレンが巨人化出来ると知り、彼を呼んでくれと騒ぎ立てたのも、巨人研究者ならその重要性を理解し、謎を解明出来ると思ったからだ。
決して、あの人に理解があったとか、巨人に興味があるとか、そんなことは一切無い。これが真実で…やはりこれも、私の『実力』ではない。

「理央ー!!お疲れ!お昼行こー…って、すご!?理央の居る場所だけめっちゃくちゃ綺麗!!」
「ハ、ハンジ分隊長!せめて、せめてこれだけは終わらせてからにしてくださいっ!!」

おじさん…
私はおじさんの願い通り、生きられていますか…?



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