LONG STORY

□巳
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親に言われたから。
それだけだった。

「中学までは義務教育だから」

じゃあ、高校には行かなくていいんだ。よかった、私、勉強嫌いだし。
そう思って、小・中と学校に通っていた。

「高校には行った方がいい」

なのに、そんな事を急に言い出すなんてずるい。行きたい高校なんてない。高校なんて、行きたくもない。だけど、三者面談で担任に勧められた高校のパンフレットを親は真剣に吟味し、「ここなんてどう?」「ここは?家からでも通えるわよ」と聞く気もないくせに、私に意見を求める。

「…まあ、いいんじゃない?」

どこの高校を選んで進んだって同じだ。嫌いな勉強をさせられる。
行きたくないという私の意見は通らなかった。

「推薦はやっぱり出ませんよね?」「そうですねー…でも、お嬢さんなら」「じゃあ、あとは過去問などで」「我々教師も全力でサポートしますから」と、受験する本人を置いてけぼりに、話が勝手に進んでいく。結局、どこになったんだろう。
机の上に散らかったパンフレットはどれも青空が眩しくて、見る気が失せた。

「雨月、受験、頑張ろうな!」
「…はぁ」
「もう、理央!シャキッとしなさい!」

バシンと背中を叩かれて、曲がっていた背筋が少しだけ伸びる。
受験なんて、高校なんて、行きたくないな…


ギィ…と椅子を引きずって、私は立ち上がる。

「雨月…です。よろしくお願いします」

ぱちぱちと疎らな拍手が飛び交う中、私が席に着くと同時に後ろの席の生徒が自己紹介を行う。入学式を終えて、こうして知らない人達に囲まれて、ようやく自分が高校生になったのだと自覚する。

東京にある青道高校に入学を決めたのは、親に言われたから。
それが一番の理由で、二番、三番と続くことはない。



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