LONG STORY

□午
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寝坊した。

バタバタと騒々しく家を飛び出して、私は、電車に飛び乗った。スマホで電車の乗り継ぎや到着時間を確認し、ほっと一息吐く。良かった…ギリギリ間に合う。私はドア越しに映る自分をチェックしながら、乱れた髪や制服を直した。

学校に着いて下駄箱に向かうと、朝練を終えた運動部の生徒達と遭遇した。「早く退いてー」「待てって、靴が」「ちょっと、押さないでよ!」「トイレ行きてー」と騒がしく、押し合いになっていた。
あの中に入って揉みくちゃにされるのは嫌だな、と腕時計の時間を確認する。…あと、15分。余裕だな。

「…あれ?雨月さん?」

名前を呼ばれて振り返えると、小湊くんが「おはよう」と口元を緩めて笑った。彼の後ろには欠伸をする降谷くんと、あと知らない男子生徒が数名居た。

「おはよう、小湊くん。降谷くんも、今日も眠そうだね」
「…ん」

生徒が少し捌け、下駄箱にスペースが出来た為、私はローファーを脱いで簀の上に乗る。

「こんな時間帯にここに居るの、珍しいね」
「え、そうかな…?」
「いつも、7時頃には学校着いてるでしょ?」
「え…うん。そうだけど…」

なんで知ってるんだろう?
上履きに履き替えてから訊ねると、朝練していると見えるのだと言う。

「そっか。そうなると、朝練終えた人に言うのはちょっと引けるな…」
「寝坊?」
「そう、わっ!?」

驚いて後ろに下がり、ドンッと人にぶつかる。「あ、ごめんなさい!」と後ろの男子生徒に謝って、目の前に姿を現した猫目の男子生徒に意識を戻す。彼は、「恐れ入りますが!」と大きな声を発し、私は目を丸くする。

「もしや、あなた様が消しゴム事件の雨月さんでいらっしゃいますか!?」
「け、消しゴム事件…?」
「バッカ!沢村!聞くなってさっき言っただろ!!」
「だって、この人が雨月さん本人か確認したくて!」
「この状況下でこいつ以外該当する人物、居ねえだろ!それぐらい分かれよ!バカ村!!」
「ガ、ガネマール!グビ!グビが…っ!!」

短髪の男子生徒に首を絞められて下駄箱から引きずられていく猫目の男子生徒と、「ごめんね、雨月さん!気にしないで!」と謝罪して、荷物を運ぶ茶髪の男子生徒。状況が一切、理解出来ず、私は「え、ちょっと…?」と彼らを呼び止めるも、そのまま行ってしまった。

「小湊くん、あれは…っていうか、消しゴム事件って…」
「うーん。…とりあえず、教室行こうか」

立ったまま眠る降谷くんを引きずって廊下を走り、教室に飛び込むと同時にHR開始を知らせる鐘が鳴った。「セーフ、ですか…っ、?」と息を切らして教壇に立つ担任に訊ねると、「え、雨月…お前、野球部だっけ?」と返ってきた。クラス中に笑いが起こった。



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