LONG STORY

□未
1ページ/10ページ


放課後の学校は、昼間とは違う活気を帯びている。
グラウンドに行けば、陸上部やサッカー部の白熱した戦いが見られる。校舎の中を歩けば、音楽やアートといった芸術に触れることが出来る。様々な部活やクラブが活動を行っていて、静かだけれど静かじゃない…そんな、黄昏時の学校が、私は嫌いだった。

理由は明白。私には無いものが混在しているからだ。

中学2年生の時、私は自殺しようとして屋上までやって来た。ヒュウ…と風が吹いて、初めて見る屋上はとても小さく感じた。腰ほどしかない落下防止のネットを私は跨ぎ、屋上の縁に降り立つ。ふわりと風が吹き抜けてスカートをめくった。
私は、そこに立って自分の存在の小ささを思い知らされた。視界の広さだけじゃない。自分がここに居ることに誰も気付かない。

部活動を行うグラウンドの生徒達も、下校する生徒達も、それを見守る教師も。自分の事に精一杯で。目の前のことに精一杯で。
だけど私も、その一人で。

私が死ぬことは私の世界の話であって、私が死んでも誰も気付かないんだ。

そう思うと急に怖くなった。

「部活?帰りが遅くなると心配だわ…」「ちゃんと勉強してるの?」
「理央はいい子ね」「最近の子はチャラチャラしてて嫌ね…絶対、真似しないでよ?」
「高校、受験するでしょ?」「高校には行った方がいいわ」

「理央、高校に行きなさい」

自分は、空っぽだ。
自殺する理由も、本当は無い。いじめられていたわけでもなければ、重い病気にかかっているわけでもない。ただ、死にたい。それだけの理由。

私は目を瞑り、両手を広げた。
一歩。大きく踏み出した先は暗闇だった。


「お前、まだ残ってたのか?帰宅部だろ?」

日が落ちて、夜になった校舎から抜け出せば、私服の倉持先輩に遭遇した。
「こんばんは」と挨拶すれば、「呑気に挨拶してんじゃねえ」とデコピンを食らう。先輩の独特な笑い声と、歯を見せて笑うその笑顔が眩しくて、私はすっと目を細めた。

「変わってませんね、先輩は」
「あ?」
「私が死にたくなるといつもそうやって現れる…」
「…おい。また、変な事しようとしてるんじゃねえだろうな」
「してませんよ。金髪のお兄さんに救われた、『大切な命』ですよ」

私は、ニッと口角を上げてみせる。
すると、先輩は「…そーかよ!だったらもっと生気のある顔しろ!!」とわしゃわしゃと私の頭を撫で回した。

「わっ、やめてくださいよ」
「ちゃんと飯食ってんのか?」
「食べてますよ。見ます?私の力こぶ」
「おーおー、見せてみろよ。こんな細腕のくせに」
「あー!そうやって人の事、馬鹿にして!ほら、ここですここ!」

むにむにと触られた腕に力を入れて、私は力こぶを作る。
そして、先輩の手を取って力こぶのある場所に乗せた。

「見せてねえし!触らせてんじゃん!つーか、ねえ!!なんだこれ!」
「ひゃあ!?ちょっと先輩!揉まないでくださいよ、筋肉無くなっちゃいますっ!!」
「マジで細えー…俺の見るか?比になんねえぞ」
「おぉ…!すごいですね…」
「部員の中じゃそんなねえけど」
「これが、上腕二頭筋…うっ、死にたい」
「はあ!?なんでだよ!!そのタイミングおかしいだろ!」
「遺書に、倉持先輩の上腕二頭筋が凄すぎたから死にますって書き足しておきますね」
「やめろ!!マジでその冗談、笑えねえから!」
「あははははは…!!」

涙が出た。



次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ