LONG STORY

□子
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トン…と机に置かれたお菓子の箱と、置いた張本人を交互に見つめる。

「…え、何?」

彼は、私の前の席に座って、「…『ポッキーゲーム』」と一言、口にした。次の瞬間、「やらないよ」という私の声と、「やりたい」という彼の声が重なった。「なんで…」とショックを受ける彼に、逆になんでやると思ったのかを問い正したい。

「降谷くん、そういうのはね…恋人同士でやるものなんだよ」
「…じゃあ、恋人になって?」
「降谷くん…」

私は頭を抱える。

「恋人っていうのは、お互いに想い合う間柄の人を言うんだよ」
「想い合う…」
「そう。降谷くんの事を理解して、大切に思ってくれる人」

私は、「その人を見つけて、その人とやって」とお菓子を降谷くんに方に置き直して伝えると、彼はきょとんとした顔で私を見た。

「雨月さんは…?」
「私…?」
「僕のこと、想ってくれないの…?」
「………」

降谷くんは私の顔を見つめたまま、「どうなの?」の首を傾げた。そんな事を聞かれても私が言える事は一つしかない。私は姿勢を正し、彼の目を見て答える。

「私は、降谷くんの恋人にはなれないよ」
「どうして?」
「どうしても」
「…どうしても?」
「そう、どうしても」

降谷くんは、目で見て分かる程、落ち込んでいた。

「僕のこと、嫌い…?」
「嫌いじゃないよ」
「じゃあ、好き…?」
「…極端だね」

私は困ったと眉を下げる。
彼は、子供みたいにぽつりぽつりと呟いて、私に質問を投げかけてくる。これじゃあキリがないと私は彼の質問を遮った。

「あのね、降谷くん…」
「僕が…」
「…うん」
「僕が、『お姫様』だから?」
「…降谷くん、『お姫様』なの?」
「雨月さんが言ったんだよ」

むっとした表情で「前に、そう言った」と私を責める。
一体、何の事だろうか…。思い出せる限りの事を頭に思い浮かべ、降谷くんの言う『お姫様』について考える。

「…ごめん、覚えてない」
「僕は、『お姫様』じゃない」
「見れば分かるよ」

だって降谷くん、男の子だし。お姫様は、女の子のことを言うんだから。
そう言うと彼は、目を輝かせて「本当?」と聞き返す。

「う、うん。それは自分が一番良く分かってるでしょ?」
「分かってる」
「なら、ほら。降谷くんはこれ持って、自分に相応しい『お姫様』を探して来てください」

「『お姫様』も『ポッキーゲーム』したくて、何処かで待ってるかもしれないよ」と。しかし、降谷くんは動かなかった。席に座ったまま、ガサガサと『ポッキー』を1本取り出して、「はい」と渡される。

「あ、くれるの?」
「あーん…」
「いや、あーんじゃ…にゃっ!?」

無理矢理口に差し込まれ、私はパキリと『ポッキー』を折る。口の中に入ったチョコレートにコーティングされたビスケットを噛み砕いて飲み込んで、私は降谷くんを叱り付ける。

「危ないでしょっ!喉に刺さったらどうするの!」
「その時は人工呼吸で…」
「どうにかなると思ってるの!人工呼吸じゃ助からないよ!」
「そんな…!」

ガーンッとショックを受ける降谷くん

「はぁ…もう、いいから。残りの分を…」
「あーん…」
「しないって」
「…次は大丈夫」
「だから、しないって」



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