LONG STORY

□丑
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「あ、雨月さん」

ロッカーから教材を取り出していると、東条くんに声を掛けられた。私は荷物を抱え、「何?」と東条くんの顔を見る。

「雨月さん、今日の放課後、空いてる?」
「放課後?空いてるけど…?」
「沢村と降谷の為に勉強会を開こうと思ってて。雨月さんも良かったら、参加しないかな?」
「…勉強会?」


HRを終えて、小湊くんを筆頭にC組の教室に移動すれば、机を並べ替える金丸くんと沢村くんがいた。

「小湊と雨月はこっちに座ってくれ。降谷はそっちな」

教室の前後に三席のブースが1つずつ、配置されていて、後ろ、前と指差した。
すると、そう指示した金丸くんに「だからなんで雨月さんをそっちに連れて行くんだ!」と沢村くんが抗議する。

「お前らの相手を雨月に任せられるか!」
「…お前らって、僕も入ってるの?」
「ったりめーだろ!」
「なんでだ!?だったらなんで雨月さんを呼んだ!?」
「小湊達の為に決まってんだろ!」

私は、小湊くんの背中を突き、疑問に思っていたことを聞く。どうして沢村くんと降谷くんの為に勉強会を開くのかと。すると、彼は「二人は勉強が苦手で…」と、こっそりと耳打ちして教えてくれた。

「脅しだと思うけど、赤点を取ったら試合に出させないって言われてるんだ」
「誰に?」
「監督に」
「へぇ…それは大変だね」
「栄純くんは前回、赤点を回避したんだけど、降谷くんは全教科赤点で」
「…冗談でしょ?」
「本当だよ。だから、二人の為の勉強会なんだ」

指定された席に着く小湊くんの隣に腰を下ろし、「じゃあ、なんで2つに分かれるの?」と首を傾げる。

「僕達も勉強しなきゃいけないし、基本、二人の相手は金丸くんが引き受けてくれるから。多分、雨月さんの為だと思うよ」
「私の為?なんで?」
「栄純くんも降谷くんも、これに関しての集中力はからっきし無いから…すごく荒れるんだ。その巻き込まれ防止じゃないかな」
「ふーん…」

私は、金丸くん達の方を見る。ぐちぐち言いながら教材を取り出す沢村くんと、既にやる気を失っている降谷くん。

「赤点を取ったら試合に出させない…」
「え、どうしたの?」
「金丸くんは大丈夫なの?」
「すごくって訳じゃないけど、金丸くんは勉強出来るから」
「でも、二人の相手してたら勉強出来ないよね?」
「うん…まぁ、そうだけど…雨月さん?」

席を立ち、荷物を持って移動した私は、「金丸くん」と声をかける。三人の顔が私の方に向いて、私は名前を呼んだ相手の視線にだけ答える。「私が二人の勉強みるよ」と伝えると、彼は「ばっ、やめとけ!」と慌てて引き止める。

「どうして?」
「こいつらバカだから、相手すんの、すっげー疲れんだよ!」

そう言った金丸くんに、「バカって言うな!」「…バカって言った方がバカ」と抗議する二人。それを「うるせえ!!」と一喝し、金丸くんは私に向かって「雨月に迷惑掛けられねえよ」と言った。

「迷惑じゃないから。二人のこと、私に任せてくれないかな」
「任せてくれったって…」
「私が教えたい」
「僕も、雨月さんに教わりたい…」
「俺も!っていうか、雨月さんが教えたいって言ってるんだぞ!金丸はそれを無下にする気か!?」
「バカ村のくせに何偉そうに言ってんだ!」

ため息を吐いて、「いいのか?本当にやべえぞ」と心配そうに私を見上げた金丸くんを「自分の心配をした方が良いよ」と笑い、椅子から追い出す。

「二人をバカにしたこと、後悔させてあげる」

唇に弧を描き、挑発的な笑みを浮かべて金丸くんを見上げた。彼の為に名乗りを上げたが、そんなことはもう忘れた。今はただ、彼に目に物見せたいという、私利私欲に駆られていた。



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