LONG STORY

□寅
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目的地に近付くにつれ、ガヤガヤと人の話し声が聞こえてきた。坂道を下り、曲がり角を左に曲がると神社の入り口が見えてくる。その神社の鳥居前、約束の人物が立っていた。

「倉持先輩っ!」
「うおっ、びっくりした!」

名前を呼んで、先輩の前に飛び出す。「あけましておめでとうございます!」と笑顔で新年の挨拶をすれば、先輩は「テンション高えな!」と驚いていた。
今朝、突然、倉持先輩から電話が掛かって来て、「初詣しに行かねえ?」と誘われた。私はふたつ返事で答え、出掛ける支度をして家を飛び出した。

「とりま、あけおめ。ことよろ」
「こちらこそ、今年もよろしくお願いします。去年はたくさんご迷惑をお掛けしてしまったので、恐れ多い事とは存じておりますが、今年は私が先輩のお力添えになれればと思っております。先輩の為なら何でもしますので!頼りないと思いますが、私で良ければいつでも頼ってくださいね?」

そう言って、にっこりと微笑むと、先輩は「長えよ!」と笑った。
元日から先輩の笑顔が見られるなんて。今年は幸先良いなぁ…。

…と、思っていたのだが、どうやら勘違いだったらしい。
お参りを済ませ、「先輩、御神籤しませんか?」と誘うと、先輩は「今年もどうせ、同じなんだよな…」と腰に手を当てる。

「じゃあ、辞めます…?」
「いや、やるけど」

先輩は、「毎年同じだから、別の出た時、何かありそうで怖いんだよな…」と、じゃらじゃらとみくじ棒を振る。私は、みくじ棒から出た数字を巫女さんに伝えて、小銭と御神籤を交換する。何かな、と御神籤を開いて、私は閉じた。そして、もう一度、御神籤を開く。私の手元を覗いた先輩は、「…お前、お祓いしてもらった方が良いんじゃねえーの?」と若干、引き気味に言った。

「…そうかもしれませんね。先輩はどうでした?」
「ん」
「大吉…。まさか、毎年大吉なんですか?」
「だからやるの怖いんだよ!これしか引いたことねえから」
「んー…まぁ、先輩は神様に愛されてますからね」
「は?」
「先輩には天照大神さまと韋駄天さまが憑いていてるんですよ、知ってました?」
「…どうした。『電波』か?」
「『ゆんゆん』、イタイ女にはなりたくないです」

読み終えた御神籤を折り畳んでポケットに仕舞う。「持ち帰んのか?」「はい、いつもそうしてます」「今年は結んでった方が良いんじゃねえの?」「大丈夫ですよ」私は、くすくすと笑う。

「未来は明るいって書いて、あひゃぁッ!?」
「っぶねぇ!!」

言ってるそばから躓いた。私の腕を掴んだ先輩の手に縋り、私は「すみませんっ!」とバクバクと心臓を鳴らす。

「大丈夫かよ。ここ、躓くもん、なんもねえぞ…」
「か、神様が!神様に引き止められたんですっ!!やっぱり結んで来ます!」

御神籤を木の枝に結び付け、「よろしくお願いします」と念を送る。
「済んだか?」「はい」「んじゃ、甘酒飲みに行くか」と歩き出した先輩の隣に並んで、簡易テントで作られた休憩所を目指す。

「そこのカノジョ連れのお兄さん!甘酒あるんだけど、飲んでいかない?」
「ヒャハハ、カノジョじゃないっすけど甘酒ください」
「あらやだ。カップルじゃないの?お似合いだったから、てっきり…」
「残念ながら、違うんすよ」
「おばさん、早とちりしちゃったよ。ごめんね!」

おばさんはケラケラと笑って甘酒を手渡す。それを受け取った先輩は、「ほらよ」と私に回した。

「…お前なぁ」
「だ、だって…!」
「あらまあ」

おばさんに笑われる。私は甘酒を両手で受け取り、「向こうで待ってろ」と言う先輩の指示に従って、そそくさと移動する。ゆらりゆらりと湯気の立つ甘酒に負けないくらい、私の顔からも蒸気が出ていた。



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