LONG STORY

□卯
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学校に植えられた梅の木に、一輪の花が咲いていた。
もう、そんな時期なんだ。私はそっと花弁に触れる。春の訪れを感じさせるその花は、薄いピンク色をしていた。

高校を入学してから一年を迎えようとしている。来月には卒業式が、そしてその一ヶ月後には入学式が行われる。4月から私は高校2年生になる。高校に行きたくない。そう言っていた頃が懐かしい。
高校に通う理由は、親に言われたからだった。それが一番で、二番、三番と続くことはなかった。だけど、先輩と再会してからは、私は先輩に会う為に高校に通っていたようなものだった。学校に行けばあの人に会える…そう思ったら、高校に通うことが苦じゃ無くなっていた。

この一年、助けてもらってばかりだったけれど、あの人といる時、私は満たされていた。

だけど、ずっとはいられないから…。来年の今になったら、あの人は確実に私の元を離れていく。今度こそ、さよならをしなければいけない。

変わらなきゃ。

先輩が居なくても大丈夫なんだって。ちゃんと証明しなきゃ。

「っ!?」

私は驚いて花びらから手を引いた。梅の花が動いたのだ。花びらの隙間からもぞもぞと黒い影が見え隠れし、虫か…?と少しだけ梅の木から離れる。すると、花の後ろから姿を現したのは小さなナナホシテントウだった。
私は目を丸くして、それを見つめた。
てんとう虫は、裏からぐるりと回って移動して、花芯の上でぴたりと止まった。花びらに身を寄せて体を休めるてんとう虫に、私は人目も憚らず、声を上げて笑った。

「そうだったね、約束してくれたんだよね」

私が望むなら何度だって見つけてやるって。
だけど、知ってるよ。あの人は、私が空っぽだから一緒に居てくれるってことくらい。あの人にとって、私は特別でも何でもないことくらい。

だからこそ、私は変わらなきゃ。



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