LONG STORY

□辰
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【卒業式編】

卒業式が終わって教室へと戻る帰り道、号泣する生徒達とすれ違った。その生徒達というのが2年生や1年生で、私は目を丸くして驚いた。これほどまでに3年生は後輩に慕われていたのかと。帰宅部の私には計り知れないことだった。

「あれ?皆集まってどうしたの?」
「うわあああん雨月さああん!!」
「えぇ!?」

野球部の1年生が廊下に集まっていたから声を掛けると、私を見た沢村くんの涙腺が崩壊した。そして「雨月さあああん!」と泣き叫び、彼は私に抱き着いた。受け入れざるを得なくて、私は大人しく腕の中に収まる。

「ど、どうしちゃったの?沢村くんは…」
「ずっと泣いてんだよ。先輩達が卒業するからって」
「あぁ…」

彼も先輩大好きっ子だったらしい。私は彼の背中を撫でて、「ほーら、いい子だから泣かないで」と慰める。「お母さんか」「…ずるい」いじける降谷くんに、私は「あはは…」とから笑いを零す。

「雨月さん、HR終わったらすぐ帰る?」
「うん、先輩達に挨拶したら帰るつもりだけど…」
「じゃあ、一緒に行こうよ。この後、野球部で集まるから」
「あー…悪いけど一緒には行けない」
「え、なんで?」
「だって色々やるでしょ?花束贈呈とか、色紙とか…」
「やるけど…それがどうかしたの?」

首を傾げる東条くんに、部外者がいたらマズいだろうと説明する。あと、気持ち的にはとても気まずい。すると、彼は「心配ないよ」と笑った。

「雨月さんは先輩達からご指名がかかってるから」
「えぇ、なにそれ!?」
「断られたら無理矢理連れて来いって言われてんだよ」

断っちゃったよ…。「で、でも!挨拶しに行くからセーフだよね?」と遠慮気味に沢村くんの肩口から尋ねると、4人は口を揃えて『アウト』と言った。


「「「卒業、おめでとうございます!!」」」

綺麗な花束と色紙が、鳴り止まない拍手と共に3年生の先輩達に送られる。
藤原先輩を囲んで涙を流すマネージャー陣や、男泣きする前園先輩とそれを慰める伊佐敷先輩、励ましの言葉を掛ける結城先輩やクリス先輩、それを親身になって聞く沢村くん達。それを見て、「寂しいものですね…」と呟く高島先生に、袖で涙を拭う太田先生と、黙って生徒達を見つめる片岡先生…。

「どうも、こういうのは苦手だなぁ…」
「あはは、分かりますよ」

顎髭をいじりながら零した落合さんの一言に、私は拍手する手を休めて共感する。彼は野球部のコーチを務めている人で、先程、彼に「もしかして、『スカウトの影山』さんですか?」と尋ねて、私は大恥をかいた。
落合さんは、「どうだかねぇ…」と疑いの目を私に向ける。

「お嬢ちゃんも向こうに行けばいいのに」
「行けるなら行きたいですよ」

でも、行けないから私はここにいるのだ。落合さんと一緒で、羨望の眼差しを向けることしか出来ないのだと言うと、彼は目を細めた。

「当たってますか?」
「…まぁ、ハズレとも言えないか」
「そういう受け答えも、仲間意識が芽生えます」
「ほぉー…」

落合さんは、顎髭をいじった。

「でも、おじさんにはお嬢ちゃんみたいに向こう側へ連れて行ってくれる人が居ないからね」

その言葉に被さるように、「雨月ー!」「雨月さーん!」と呼ぶ声が響いていた。私を呼ぶ彼らに手を振って、「行っても、私の居場所はありませんよ」と私は、落合さんとの会話を続ける。

「それでも向こうで待ってる人がいるなら、お嬢ちゃんは行くんだろう?」
「根本的な解決にはなっていません」
「なら、ここで腐るのを待つか?」

「お嬢ちゃんの人生だ。好きにしなさい」と落合さんは、踵を返した。私は振り返る。

「向こう側の人間にはなれませんよ」
「それはお嬢ちゃん次第だろう」
「私は、なりたいわけじゃないんです」

落合さんは足を止め、私に向き直った。

「なりたいと思った時には、もう手遅れなんて話があるよね」
「そんなこと、一生、思いません」
「…どうだかねぇ」

そういって彼は肩を竦め、そのままどこかへ消えてしまった。
先輩達の怒鳴り声が聞こえ、私は、「今行きますよ!」と振り返って、走り出した。



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