Wisteria

□第二話
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季節も春になり、暖かい日差しが降り注ぐ。梅が咲き、桜が咲き、杉の木は花粉を撒き散らす。今年は例年に比べて酷く、地球外の植物の花粉までもが飛んでいるらしい。花粉アレルギーを持たない雨月は周りから羨望の眼差しを向けられ、鼻水や涙ででろでろになった隊士達は逆に同情の眼差しが向けられた。
そして、自身の分身のようにそっくりな赤ん坊を連れた銀時には、軽蔑の眼差しが向けられる。

「待て待て!違う!そんな目で俺を見るな!」
「言い訳は結構です。僕には関係の無いことですから」
「待って、お願い!そんな冷たいこと言わないで!俺の話聞いて!俺の周りにはお前しかまともな奴居ねえんだわ!お前しか真面目に話聞いてくれる奴が居ねえんだよ!」
「ちょ、触らないでください」
「…ねえ、触るなって酷くない?俺、不潔じゃないから。俺に触られたらどうにかなるわけじゃないから。つか、そもそも俺の子じゃないから!」
「銀さん、酒癖悪いじゃないですか。酔った勢いでー、なんて"ざら"でしょう」
「ンなことざらにあってたまるか!酒癖だっててめえほど悪かねえぞ!てめえなんか酔った勢いで…んむっ!」
「分かったから。話聞くから。その話はやめて…」
「………」

恥ずかしさで顔を赤らめる雨月に口を封じられた銀時は、こういった反応も自分の周りではそう見れたものじゃないとしみじみ思った。銀時は、自分とよく似た容姿の赤ん坊が捨て子であることを説明する。勿論、全く身に覚えがないこと、その手の事は一切していないことなども事細かく話し、雨月の誤解を解く。

「捨て子…、それはまた何とも酷い話ですね…」
「だよな。俺もそう思う。つーわけで、ほい」

赤ん坊が差し出され、雨月は目を丸くする。

「え?」
「保護してやってくれよ。沖田君にもお願いしたんだけどアイツ、仕事サボってて人の話なんか聞きやしねえ。まぁ、沖田君に任せるより雨月の方が安心出来るし。頼むよ」
「良いですけど…」

銀時から赤ん坊を受け取って抱くと、「あぶぅ…?」と鳴いた。

「…もしかしたらもしかするかもしれませんよ?」
「おい、その『もしかしたらもしかする』って俺が父親だって言いたいわけ?違うって言ってるのに?自信無くなるからやめてくれる?おい、俺の息子じゃねえんだろ?本当の親はどこにいるんだ?」
「はぷ」
「ふふ…もしも本当の親が見つからなかったら、銀さん、里親に立候補してくださいね?」
「マジかよ。じゃあ、お父さんって呼んでみ。ほら、お父さんって」
「あばぶー」

雨月は、可愛いと笑った。
その時、背後から声を掛けられる。銀時と雨月が振り返ると、そこには三度笠を被り、帯刀した武士がずらりと並び、気が付くと二人の行く手は塞がれていた。

「おいおい、随分たくさんお父さんが居るんだな」
「貴様らか。賀兵衛様の孫を誘拐したのは」
「え、誘拐?何が?誰が?何処で?」
「惚けても無駄だ。貴様、あの女の愛人か何かだろう。二人で共謀して賀兵衛様の孫を攫い、橋田屋の財産を狙うつもりだな」
「おーい。何言ってんの?この人達」
「あぱん!」
「お前、何言ってんの?お前」
「いくらお金に困ってるからって流石にそんな…ねえ?」
「雨月…テメー、ちょっと疑ってんじゃねえか。あのおじさんの話を信じる気か?」
「生きて捕らえよとのことだが、男なら関係あるまい」

斬り捨てろの言葉を合図に、刀を構える武士達。雨月も赤ん坊を抱いて臨戦態勢に入るが、銀時によって止められる。

「俺、全然関係無いから。酔った勢いで『俺のハートはお前の人質』とか言ったかもしれないけど関係無いから」
「ならば、その赤子を寄越せ!」
「待て待て、焦るな。そんなに欲しけりゃ喜んで…」
「お断りします!」
「えっ、ちょっと理央ちゃん?お前まで何言ってんの?」
「この子は僕が保護しました。素性も知れぬ輩に渡すわけにはいきません」
「………」
「渡す気が無ければ力ずくで奪うぞ…かかれ!」

武士が次々に刀を抜き、銀時と雨月を襲う。

「だーかーら!お断りだって…!」

雨月は宙に赤ん坊を放った。武士が赤ん坊に気を取られている隙に屋根へと飛び移った雨月は、空中で赤ん坊をキャッチする。その間、銀時は腰から木刀を抜き、余所見する武士達を薙ぎ倒した。雨月が地上に着地する頃には、辺りには押し切られた武士達が横たわっていた。

「!」

だが、他より遅れて刀を抜く侍が一人。落下してくる雨月を狙っていた。



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