Wisteria

□第五話
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白い防護服に身を包んだ雨月は、叫ぶ。

「カブト狩りじゃあああ!」

大広間に集まっていた隊士達は、ぽかーんっと口を開け、全身真っ白の雨月を見ていた。雨月は、すぅっと息を吸う。

「カブト狩りじゃああああ!」
「うるせえ!何騒いでんだ、てめえら!」
「土方さん、騒いでるのは雨月だけでさァ」

戸を開けて入っていた土方の言葉を訂正し、沖田は雨月を指差す。土方は、その指の先、防護服で身を固めた雨月のメットを殴った。

「何やってんだ、お前は。暑さで脳がやられたか?」
「違います。これはれっきとした仕事着です」
「スズメバチの駆除なら専門家に依頼しろ!」
「スズメバチじゃありません!カブトムシです!」
「…カブト虫の駆除って何だよ。つか、お前までカブト虫って勘弁してくれよ。逃げ出したカブト虫が届いてないかって屯所に来るガキ共と大差ねえぞ」
「なら、これはどうなんですか!ここはガキ共の集会所だとでも言うんですか!」

大広間では、カブト虫同士を戦わせる相撲大会が行われていた。隊士達は自慢のカブト虫を持ち寄り、相撲を取らせて遊んでいたのだ。何をやってるんだと怒鳴り散らす土方を雨月が羽交い締めにして止める。

「暴れないでください!カブト虫が一斉に飛んだらどうしてくれるんですか!」
「てめえもさっき騒いでただろ!」
「それはすみませんでした!お願いします、土方さん!僕に協力するよう言ってください。今回の仕事は荷が重すぎて、一人ではどうすることも出来ないんです…!」

基本、何でも一人で解決する雨月がこうして協力を仰ぐことは珍しく、土方は、ぴたりと動きを止める。雨月は土方を離し、面と向かって言う。

「カブト虫を捕まえるのを手伝ってください」
「ふざけるな!誰が協力するか!」
「わー!待って待って、待ってください!ただのカブト虫じゃないんですー!」

土方の腰にしがみ付く。

「将軍サマのペットなんです!」

将軍は、『瑠璃丸』というカブト虫を飼っていた。一見ただのカブト虫と変わらないのだが、太陽の光に照らされると黄金色に輝くのだという。その姿から生きた宝石と呼ばれ、大層、大事にされていたそうだ。しかし、その瑠璃丸が逃げ出してしまったのだ。

「話は聞かせてもらったぞ!」
「近藤さ……ん?」

大広間に現れた近藤は、ふんどし姿で全身に蜂蜜を塗りたくっていた。

「これより、ハニー大作戦を決行する!」
「俺はパス。違う方法で捕まえる」
「俺も別の方法でいきまさァ」
「ちょ、ちょっとー!」

将軍が瑠璃丸と生き別れた森にやってきた真選組は、各々のやり方で瑠璃丸の捕獲に乗り出した。虫嫌いな雨月は変わらず、白の防護服を着用し、殺虫剤を散布しながら森の中を彷徨っていた。
すると、そこに顔を引攣らせた万事屋三人組が現れる。

「あれ?こんなところで何してるんですか?」
「『何してるんですか?』じゃねえよ!お前こそ何してんだ!殺虫剤なんか撒き散らしてたらカブト虫の幼虫ごと死んじまうだろうがー!」
「このヤロー!この世からカブト虫を消し去るつもりだな!そうやって自分勝手に生態系を破壊して、あらゆる虫を死滅させるつもりだな!」
「やっぱり帰りましょうよ!この森、怖いです!」
「急に出てきてなんですか!」

銀時と神楽は、雨月の胸倉を掴んでガクガクと揺すり、その手から殺虫剤を取り上げるとスプレー口を踏み潰し、使えなくした。地面に転がるスプレー缶を手に、雨月は嘆き悲しむ。

「あぅ…酷い。僕のライフガードが…」
「たく、何なんだよこの森は!ろくな人間が彷徨いてねえな!」
「これじゃカブト虫も出るに出られないネ!」
「殺虫剤がライフガードってもうワケ分かんねえよ…って、ぎゃああ!何じゃこりゃあ!」

雨月を放置して森の中を進む三人は、楠の樹液に集る、大きなカブト虫を見つけた。幹を蹴飛ばし、見事、巨大カブト虫を地に落とした三人は、ガッツポーズで喜びの声を上げる。

「これで定春28号の仇が…」
「何しやがんでィ」
「ぎゃああああ!」

巨大カブト虫の正体は、着ぐるみを着た沖田だった。

「おい、何の騒ぎだ?」
「あー、お前ら!こんなところで何やってんだ!」

騒ぎを聞きつけて駆け付けた真選組は、万事屋と、三人に蹴られてボロボロになった沖田を発見する。沖田は起き上がれず、手足をばたつかせていた。



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