Wisteria

□第一話
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メイド型ロボットに江戸の町をめちゃくちゃにされたり、眉毛がM字に繋がるバイオテロが起きたりと事態の収拾にあくせく働き、やっと一段落が付いた頃。松平が持ち掛けてきたのは、近藤の見合い話だった。

「全く、お見合いくらいで一体何を騒いでいるんですか。嫌だ嫌だって言いながら、本当は見合い話に浮かれてるんですか?レッツ、パーリィーですか?テンション上がってキャバ嬢とパーリナイですか?土方さんまで勘弁してくださいよ、ホント…僕、もう手一杯なんですから」
「…悪かったな、呼び付けて」

近藤の頼みで『スナックすまいる』にやってきた土方は、そこで働く近藤の想い人お妙に、近藤に縁談が来ていることを伝える。破談に協力して欲しいとお願いするも断られ、挙句、店の客、柳生九兵衛という男と喧嘩になり、隊士全員が峰打ちでやられて気絶した。自身の身を守った土方は刀にひびを入れられ、隊士の回収のために呼んだ雨月は店に着くや否や、疲れた顔で土方を責めた。

「大丈夫か、お前…」
「何がです?」
「顔が死んでるぞ」

気絶した隊士をリヤカーに乗せてガラガラと引いて歩く雨月は、松平から縁談の仲介補佐を任されており、淡々と着実に縁談を進めようとしていた。その姿から縁談に反対する隊士達の反感を買い、屯所内では対立抗争が勃発している。

「…実は今回の縁談、上は、僕を指名したかったみたいなんです」
「え、そうなの?」
「ですが、諸事情で…若過ぎるという理由から降ろされ、近藤さんが代わりに指名されたんだそうです」
「はぁー、なるほど。それでお前は負い目を感じて仲介補佐を引き受けたのか。だとしても何でそんなに見合いをさせたがる。普通なら反対するだろ」
「一刻も早くこの仕事を片付けてゴリラから解放されたいからです。なのにあなた達が邪魔をするから全然話が進まないんです。縁談の話が来たって、見合いして振られれば、『この話はなかったことに』で終わるんです。向こうが勝手に引き下がるのを待てばいいだけなのに。見合いする前からぎゃあぎゃあと…」
「………」

雨月は、静かに怒っていた。
屯所に戻ってきた二人と十人は、中庭から居間に入った。

「コイツらには俺から言っておく。お前が運んでくれたってこともな」
「土方さん、お気持ちだけで十分です。僕に対する考え方が変わるわけではありませんし、恩着せがましくて余計に事態が悪化するだけですよ」
「いいのか、お前はそれで」
「慣れてますから」

そう言って、居間を出て行こうとする雨月に、土方は「どこがだよ」と言葉を発する。雨月は振り返って土方を見た。

「…何ですか」
「慣れてる奴の態度じゃねえだろ、それ。頭に来てんだろ」
「そう聞こえませんでしたか?僕は怒っているんです。この縁談の背景にあるのは政治です。上は、外交で衝突を繰り返す猩猩星との関係を修復したいが為に、バブルス王女との政略結婚を画策しているんです。近藤さんは、僕の代わりに選ばれました。謂わば、近藤さんは生贄なんです。それを阻止しようと言うのに。外野は黙って大人しくしててくれませんか」
「外野ね。確かに、外交問題なんて言われても当事者じゃねえ俺達には分からねえ。だが、近藤さんに縁談が持ち上がった時点で俺達は、身内として巻き込まれてんだ。そいつはもう立派な関係者だろ」

じっと土方を睨み付けていた雨月は、頭を抱えて深い溜息を吐いた。

「そうですよね。あー…もう、すみません。完全に八つ当たりです…」
「…お前、本当に大丈夫か?何なら、相談乗るぞ」
「大丈夫です、お陰で目が覚めましたから」

雨月はパチパチと頬を叩いた。愚痴を詫びて、今度こそ居間を出て行く雨月の顔にはいつもの無表情があり、疲れの色は消えていた。



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