Wisteria

□第五話
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大型量販店が立ち並ぶオタクの聖地、秋葉原。その聖地に集いしオタク達は、まだ肌寒い夜の帳の中、『弁天堂』が販売する新作ゲーム機『OWee』を手に入れるため、電気屋の前に長蛇の列を作っていた。

「申し訳ありません、お客様」

そう店員が声を掛けたのはオタクに紛れ列に並ぶ近藤と沖田だった。

「他のお客様のご迷惑になりますので、お風呂はちょっと…」

どこから持ってきたのか、沖田は五右衛門風呂に浸かっており、近藤はその隣で頭を洗っていた。

「何だ、こら。こっちは徹夜で並んでんだ。風呂くらい入りたいだろ」
「やめろ、総悟。すみません、すぐ終わりますんで。まだアソコ洗ってないんで」
「いや〜…もう、警察呼びますよ?」
「いや、僕ら警察なんで」
「だから警察呼びますよ」
「だから僕らは…」

近藤は、湯船にいる沖田を挟んで店員と揉み合いになる。

「ちょっ…!まだ、アソコ洗ってないでしょうがああ!」

そんな馬鹿をやる上司と部下を蹴り飛ばしたのは、土方だった。近藤と沖田は列を外れ、ごろごろと歩道に転がっていく。薪を片手に竹筒に口を付けていた雨月を土方が見下ろす。

「雨月、てめえは何してんだ?」
「えーっと…何も?」

五右衛門風呂のお湯を沸かしていた雨月は、土方に睨まれ、それらをササッと片付ける。すると、列の後ろを振り返った土方が、チッ…と小さく舌打ちをした。

「どうしたんですか?」
「雨月、てめえはここに並んでろよ」
「え、はい」

雨月を残し、列を遡る土方。
残された雨月は何だろうと首を傾げた。

「てめえら、こんなところで何してやがる」

列を離れた土方は、列の後方に並ぶ見知った人物に声を掛ける。

「その台詞、そのままバットで打ち返してやるよ」
「その台詞を更にバットで打ち返してやるよ」
「その台詞を…」
「もういいです、しつこいです」

新八がぴしゃりと銀時と土方の口論を止める。土方が見つけたのは万事屋の三人で彼らは炬燵に入って暖を取っていた。その横を近藤と沖田が寒さに震えながら通り過ぎ、バックで戻って来る。

「あ、炬燵だ!」
「ちょっと入れてくんない?」

返事を聞かずに炬燵に侵入する二人。神楽が勝手に入るなと文句を言う。

「あ、何々?お前らもひょっとしてゲーム買いに来たわけ?ププー、暇なヤツら!」
「…近藤さん、その台詞は全て俺達にも降り掛かって来るんで、やめてくだせェ」
「でも、残念でした!この店のゲームの在庫は100台だけらしい。そうさなー、列で言うとちょうどトシがいる辺りまでで在庫が切れるだろう。残念ながらお前達のところまでゲームは行き届きましぇーん!ナハハハハ!悪いな、こっちは昨日の朝からここに並んでるんだ。なぁ、トシ?」

土方は、フーッと煙草の煙を吐く。

「………あれ?何でここに居るんだ、トシ…」
「…寒いから」
「『寒いから』じゃねえよ!」

ちゃっかり炬燵に入って暖を取る土方を、近藤は机を叩いて怒鳴り付ける。

「何で順番確保してくれねえんだよ、おい!昨日から並んでたのがぱあだろうが!どうするんだー!俺は店でお妙さんと約束しちまったってのによぉー!」
「近藤さん、心配いらねえ。俺の代わりに雨月が並んでるはず…」
「土方さん、雨月ならあんたの後ろに立ってやすぜ」
「雨月!お前、何してんだ!」
「自分達だけずるいです…。僕一人に並ばせて炬燵でぬくぬく…」

マフラーを手繰り寄せ、口元を覆った雨月は恨めしそうに三人を見ていた。制服でも袴でもない、着流し姿の雨月を見た銀時は、ゴンッと頭を机に打ち付ける。いくら雨月と喧嘩中でも、流石にその格好には文句の一つや二つ言いたくなる。羽織を着用しているから幾分かマシだが、只でさえ雨月は線が細い。そんな人が着流しを着たら分かる人には分かってしまう。
銀時が雨月に声を掛けようとしたその時、ガラガラと店のシャッターが開く。



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