Wisteria

□第一話
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朝礼の為、大広間に集まっていた真選組の隊士達は、近藤が襖を開けるのと同時に号令を掛ける。だが、彼の後に続いて入室した一人の男を見て全員が目を見開いた。
男は黒い真選組の制服を着用しており、その左腕には『特命係』と書かれた腕章を巻いていた。風を受けてさらりと流れた短髪の白髪はきらきらと光り輝いていた。

「今日は早速、皆が気にしていることから話そう」

その言葉に、近藤の隣…少し離れた位置に腰を落ち着かせる男に視線が集まる。男はバツが悪いのか、その視線から目を逸らす。

「彼は特命係の雨月だ。御上の命により、ここ真選組に席を置くことになった」

雨月と呼ばれたその男は軽く頭を下げた。雨月の仕事について説明を続ける近藤の声に被せるように、土方は小さな声で呟く。

「特命係って…相○かよ」
「でも、その相棒はいやせんぜ」
「当然だろ、特命係っていや『陸の孤島』…『窓際部署』つー設定だ。あの雨月と組んだら最後、辞めるしかねえ」
「『人材の墓場』ってことですかィ。そんな人がここに来たってことは…」
「………おい、まさか」

顔を引攣らせる土方。
沖田は視線を近藤に戻す。

「部署が違うからと言っていがみ合う事なく、お互い協力し合って職務を全うして欲しい」

それからはいつもと変わらぬ連絡事項を済ませ、近藤の「解散」という言葉に従い、隊士達は部屋を後にする。土方と沖田も席を立ち、近藤の元へ歩む。

「では、僕もこれで失礼します」
「あっ、待って!」

スッと立ち上がった雨月を近藤が引き止めた。

「この辺のこと、詳しくないでしょう?折角だから市中見回りに…」
「お構いなく。この街に来るのは初めてではありません。それに僕はあなた達と馴れ合うつもりはありませんから」

そう言って彼は大広間を後にする。その際、すれ違った土方と沖田を一瞥していった。その目に違和感を覚え、土方は出て行く雨月を見て訝しむ。

「なんだ、アイツ…」
「近藤さん、昨日は一体何があったんです?」
「いやぁ、それが何から話せばいいのか…」

近藤は、たはは…と笑う。
昨日の夜、近藤は警察庁長官である松平片栗虎に呼ばれて会食へ行った。そこで言われたのだ。「明日からお前のところに『特命係』が設置されるから、ヨロシク」と。

「え、○棒…?」
「ドラマじゃねえよ。派遣されるのは特命係の雨月理央だ」
「ちょっと待って!特命係って何人居るんだ?」
「馬鹿野郎、特命係って言ってんだろ。雨月一人だけだ」
「えええええ!?ドラマそのまんまじゃねえか!嫌だよ!殺人事件を捜査していくなんて!原作はそんな物語じゃないし!!」
「安心しろ、設定だけでここの管理人は何も考えちゃいねえから」
「1番怖いわ!迷走する気満々じゃねえか!」

すると、松平に抗議していた近藤の頬を何かが掠める。そして追い討ちをかけるように何発もの銃弾が撃ち込まれた。近藤は叫び声を上げて逃げ惑ったが、額に拳銃を押し付けられて反射的に息を飲む。

「ごちゃごちゃうるせえなぁ、始まっちまったもんはしょうがねえだろ。走り出しちまったものはなぁ、もう止まらねえんだよ。それとも何か?御上に逆らおうってか?あぁ?」
「めめめめ滅相も御座いません!」
「良いか、雨月は御上のお気に入りだ。アイツが真選組に置かれるってことは、多少の問題事なら雨月に免じて許されるってことだ」

松平は近藤から銃口を離し、拳銃を懐に仕舞った。

「アイツが上からどんな命令を受けてくるかは知らねぇが、上手く使えよ。じゃねえとドラマの設定通り、お前ら全員、雨月の相棒の肩書き背負って職を失うことになるだろうよ」

そう口にしていた松平を思い出し、近藤は深い溜息を吐いた。話を聞いていた沖田が口を開く。

「御上の恩恵を受けた雨月…それって逆に言えば、真選組の動きは制限されるってことですよね。幕府が絡んでる物事には手が出せなくなりやすぜ」
「そうだな、俺達の動きが雨月を通して御上に筒抜けになる可能性もあるわけだ」
「だからとっつぁんは、雨月を利用しろって言ってるんだろうな。それが出来るか出来ないかで真選組の命運は左右されるからな」

その時、頭を捻る三人の耳に異様な叫び声が木霊する。三人は直様部屋を飛び出し、声のした方へと駆けた。



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