Wisteria

□第二話
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昨今、天人大使館を狙う連続爆破事件が起きていた。攘夷浪士による爆弾テロとして江戸全土で警戒に当たり、真選組も総出で出払っていた。そんな状況でありながら戌威大使館が襲われ、メディアは犯人と思われる三人組を晒し者にする。

TVを見ていた雨月の隣で、沖田が「あーあ」と声を漏らす。

「バッチリ映ってまさァ。可哀想に。もう江戸の町は歩けやせんぜ」
「………」
「俺達、ここを見張ってたんですけどね。土方の野郎が仕事サボってたせいで爆破されちまったんです。偉そうに指揮しておいて何やってんだって思いやせん?」
「…………」
「そこには桂の野郎も居やして、今、山崎が後を追ってるんですが、アジトを突き止めたら真選組全員で押し掛けて、桂一派を一網打尽にするつもりなんですよ」
「………………」

話を聞いているのか聞いていないのか、雨月は膝を抱えて座り込んでいる。沖田は彼を見下ろし、つまらないと唇を尖らせる。雨月は基本的に自室兼仕事場から出てこない。稀にこうして姿を現わすが、隊士達と交流するつもりがないのか、話し掛けても無視される。近藤と土方とは口を利くらしいが連絡事項のみで、多くを語ることはない。

雨月が隊士と乱闘騒ぎを起こして以降、雨月が声を発するところを見ていない。土方が言っていた瞳も、沖田は間近で見たことがなかった。そして何よりも沖田は、雨月の実力を知りたくて、彼に挑みたくて仕方がなかった。
乱闘騒ぎで気絶していた隊士達から詳しく話を聞いたが、相○をネタにからかっていたら突然、キレたらしい。一人が殴り飛ばされ、全員が刀を抜いた。『雨月に殺されると思った、自衛のためだった』…そして、彼らは言った。『自分も仲間も皆、死んだと思った』と。伸された隊士達は雨月に怯えており、報復を与えようとした他の隊士を袋叩きにしてまで止めていた。

「…特命係の雨月」

沖田はボソリと呟く。雨月が微かに反応したのを見た。
沖田は、いつ雨月がキレてもいいように警戒しながら、言葉で攻める。

「なんで相棒がいないんでさァ。そもそも、相棒はいたんですかィ?」
「………」
「過去に組んだ相方も、こうやって無視してたんですか?それで皆、嫌になって辞めちまったんですか?」
「…………」
「交流を図ろうとした隊士達も叩き潰して、憂さ晴らしですか?あんた、何がしたかったんです?」
「……………」
「一人ぼっちで寂しい、特命係の雨月サン。俺が相棒になってやりやしょうか?ここで刀に長けてるのは近藤さんや土方さんを抜いて、俺だけですぜ」
「………………」
「…………」
「………」
「……」

沖田は静かに雨月の隣に腰を落とした。持ち前のドSも反応が無ければ、発揮することが出来ない。何より、隊士達の言葉程度でキレた雨月が、サディスティックな言葉は高度過ぎて通じないのではないかとさえ思い始める。チラリと彼を見るが、白髪の前髪が邪魔で顔色は窺えない。雨月が反応したのは最初だけで、特に怒っている様子も傷付いている様子も、まして悦び興奮している様子もない。

「…何してんだ、総悟」

名前を呼ばれて振り向くと、顔を引攣らせた土方がいた。
土方は、雨月が居たことにも驚いたが、その隣に座ってTVを見ている沖田に驚いていた。個人主義の雨月は、宣言通り、誰とも馴れ合おうとしない。土方はいくらか彼と話をするが、仕事以外話しかけるなオーラを放つ為、こちらも特に話すことはないし、部署も違うと託けて干渉していなかった。
そんな雨月と沖田が並んでTVを見ていた。土方にとってそれは目を疑う光景だったのだ。

「土方さん、山崎から連絡は来たんですかィ?」
「あ、あぁ。逃げられる前に行くぞ」
「へいへい。さあ、雨月も行きやすぜ」
「えっ!?何言ってんの、総悟君!?」
「TV見て暇してるならいいじゃねえですか。いつも引きこもって書類仕事しかしてないんですし、どうでさァ。攘夷浪士相手にパーっと暴れてみたくはないですか?」

手を差し伸べる沖田。そうすることでやっと顔を上げた雨月に沖田はニッと口角を上げる。パチリと瞬きした淡い青色の瞳は他の誰でもない、沖田を捉えていた。



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