Wisteria

□第三話
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「真選組を取材ぃ?」

いつも仏頂面の雨月が、珍しく困った顔をして土方の部屋にやって来た。その手には一通の手紙を持っていて、畳に正座すると用件を話し出す。

なんでも、TV局から真選組の特番を組みたいと連絡があったそうだ。内容は24時間密着取材し、江戸の平和がどのようにして守られているのかを視聴者に知ってもらおうというもの。悪評ばかりの真選組のイメージアップを目的としているらしい。

「近藤さんはなんて?」
「お部屋にいらっしゃらなくて…、その…」
「…なんだよ、はっきり言えよ」
「上が既に取材許可を出していて、というか上が何もかも勝手に決めて進めてて、それで、これが許可証だって言って、取材班が表に…」
「………今か?」
「今です」
「今から24時間?」
「そのようです…攘夷党の罠かとも思い、上に確認したら以上のように返されて…。許可証も偽物ではないかと調べたんですが、間違いなく本物でした。どうしましょう、土方さん」

雨月はほとほと困り果てているのか、しおらしくなった彼に土方は調子を狂わされる。

「どうしましょうって、お前…上が許可したんじゃ仕方ねえだろ。通せ」
「近藤さんには…」
「後で伝えとけ」
「わかりました」

雨月が引き下がろうとしたその時、土方の携帯電話が鳴る。土方はポケットから携帯を取り出してディスプレイを確認すると、それは山崎からだった。山崎は今、ある攘夷派を見張っている。電話を寄越したということは、何か動きがあったのだろう。土方はニヤリと笑った。

「ちょうど良い、テレビクルー引き連れて攘夷狩りに出掛けるとするか」

こうして華麗なお縄劇をオープニングに、密着取材ははじまった。



次の日、雨月は人の気配を感じて飛び起きる。刀を片手に襖を開け、廊下にいた人を容赦なく襲う。すると、「うおおおお!?」と悲鳴を上げて、その男は尻餅をついた。

「急に何してんの!?お前!」
「…土方さん、何か用ですか」
「おまっ!第一声がそれかよ!斬り掛かっておいてそれはねえだろ!」
「寝首を掻きに来た賊かと。すみません」
「だったら鞘から抜け…って、抜いてねえのか?」

刀は抜かれておらず、黒い鞘に納められていた。くるりと手首を回し、刀を持ち替える雨月を見る。ここに来て土方は、はじめて雨月の寝衣姿を見た。普段からきちっと制服を着用している彼は、いつ何時どこで会っても制服姿だった。仕事だろうと休みだろうと関係なく部屋に篭っていて、袴や着物で敷地内を歩く姿は、未だ嘗て見たことがない。

物珍しさから、土方は雨月を観察する。すらりとした細身の体に着崩れした着物はどことなく色気を誘う。制服では首回りや素足は見ることがない為、こうして肌が露出しているのも珍しい。その肌は日焼け知らずの色白だった。

「刀を抜いていいのは、斬られる覚悟のある奴だけです。僕はまだ死にたくない」
「それが真選組に身を置く男の言葉か…」

手を差し伸べる雨月に支えられて、土方は立ち上がる。「煙草、落としてますよ」と腰を曲げた雨月の頭には、ちょこんと跳ねた寝癖が付いていた。

「それにしても、土方さんは早起きですね。今何時ですか」
「馬鹿野郎、もう12時だ。いつまで寝てんだ」
「…あぁ、すみません。寝過ごしてしまいました」

そう謝るも、雨月は口元に手を当てて眠たそうに欠伸を漏らす。

「疲れてんのか?」
「半日仕事をサボった僕に対する嫌味ですか?寝起きで酸欠なだけです」
「悪いな、こっちは激務で忙しく走り回ってたんでね」
「…近藤さんは?戻られましたか」
「いいや」
「そうですか…。僕、心配なので後で保健所の方にも問い合わせてみます」
「おーい、まだ寝惚けてんのか?」

らしくないボケをかます雨月の目の前でひらひらと手を振ると、彼は鬱陶しそうに顔を顰めた。
寝坊したが、雨月は休まず仕事をするらしく、身支度を整えたら近藤を探しに出掛けるそうだ。取材があったことは後日報告すればいいと土方は口を挟むが、雨月はふるふると首を振って否定する。

「最近、器物損壊に関する始末書が多いので少々注意して頂こうかと。特にバズーカによる損壊報告が多くて、使用理由も『仕留め損ねた』だけでは…」

バズーカと聞いて土方は頭を抱える。

「わかった、それは俺からよーく言っておく」
「…ありがとうございます」



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