Wisteria

□第六話
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久しぶりに雨月を見たそよ姫は、目を丸くして驚いた。その反応は、雨月の予想通りだったのだが、少々照れ臭くなり、視線を逸らした。

「まぁ、理央さん?随分と男らしくなられて…思わず見惚れてしまいました」
「そよ姫様も一段とお綺麗になられましたね」

優しく微笑む雨月に、そよ姫は「まぁ…!」と頬を染める。

「驚きましたよ。急に手紙が届いたかと思えば、『お城から出たい』だなんて…」
「だって、理央さんしか頼れる人がいなくて。でも、私、信じていましたよ。ちゃんと約束通り、迎えに来てくださいましたね」
「『可愛い子には旅をさせよ』と言うでしょう」

雨月はゆっくりと立ち上がって、そよ姫に近付く。そして彼女の前まで来ると、片膝を立てて静かに手のひらを差し出した。

「さぁ、お手をどうぞ、お姫様」
「素敵…でも、今日は『そよちゃん』って呼んでほしいです」

そよ姫が城からいなくなったと騒ぎになるのは、それから暫くしてのことだった。その情報は真選組にも届き、早急に捜索に乗り出した。山崎から、そよ姫が歌舞伎町にいるという情報を受け、近藤、土方、沖田の三人は歌舞伎町へと向かう。

「…しかし、こういう時こそ雨月の出番だろ。どこほっつき歩いてんだ、アイツは」
「トシ、聞いてないのか?」
「今日、雨月はどこぞの馬の骨とも知らねェ女とデートしてるんでさァ」
「はぁ!?デート?アイツが?」
「雨月も男なんだな。我々とは馴れ合わずとも、女子ともなれば話は別か。あの容姿だ、さぞモテるんだろうな。二人とも、知ってるか?雨月のヤツ、カエルから『白"馬"の王子』って呼ばれていたんだぞ。狙撃された後、雨月を呼び付けていたし、相当、気に入られていたんだろう」
「マジでか!あのカエルに好かれても嬉しくねえな…」
「それは雨月も同じでさァ。あのクールなキャラが壊れるくらいには嫌っていたみたいですぜ」

襖を開けた時の雨月の死んだような顔を思い出し、沖田はくつくつと笑った。



その頃、雨月とそよ姫は、神楽の案内の下、歌舞伎町を巡っていた。

「は、くしゅんッ…」
「まぁ、風邪ですか?」
「夏風邪は馬鹿が引くものだって銀ちゃん言ってたアル」

神楽と出会ったのは、偶然だった。
雨月が飲み物を買いに行っている間、そよ姫は地元の悪ガキに絡まれてしまう。そこをちょうど通りがかった神楽が悪ガキを追い払い、そよ姫を救ったのだ。

「もしかして、お前のコレ、アルカ?」
「違いますよ。ただ、ちょっと訳ありで…」
「『デート』という名の逃避行中なんです」
「デート中だったアルカ?それは邪魔したネ。後は若い者同士ごゆっくり…」
「ふふ、女王さんったら。面白い人。ねぇ、理央さん。女王さんがこの辺り詳しいそうなので、案内をお願いしたいのですが…構いませんか?」
「そよ…ちゃんの好きにしてください。『デート』なんて言ったって僕じゃ役不足でしょう?」
「そんなことありません。理央さんは素敵な方ですよ、とっても」
「…惚気るなら他所でやるアル」

神楽は、酢昆布を齧りながらそう言った。

神楽は、二人を色んなところへ連れて行った。賭場から始まり、駄菓子屋、ゲームセンター、魚釣り、プリクラ専門店…遊び疲れた三人は、甘味処で団子を食べて休んでいた。日はだいぶ傾き、オレンジ色の光を放っている。

「すごいですねぇ、女王さんは私より若いのに。色んなことを知ってるんですねぇ」
「まぁね。後は、一杯引っ掛けて朝までコースってのが今時のヤングヨ。まぁ、全部、銀ちゃんに聞いた話だけど」
「女王さんはいいですね、自由で。…私、城からほとんど出たことないから、友達も居ないし、外のことも何も分からない。私に出来ることは、遠くの町を眺めて想いを馳せることだけ…」

自由に遊びたい、自由に生きたいと『自由』に対する憧れを口にするそよ姫の話を、神楽は黙って聞いていた。雨月は、そよ姫の語るものが叶わないことを知っている。勿論、そよ姫も理解していた。

「私が居なくなったら、色んな人に迷惑がかかるもの…」
「その通りですよ」

突然、誰とも知らない男の声が聞こえて、三人はパッと顔を上げた。そこに居たのは土方だった。



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