Wisteria

□第二話
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煉獄関の件で天導衆から呼び出しを受けた松平は、近藤を迎えに屯所にやってきた。拳銃を片手に近藤を撃ち狙う松平は怒り心頭である。

「前から馬鹿な連中だと思ってはいたが、まさか煉獄関に手を出すとはよぉ…」
「え?看護婦さん?看護婦さんは好きだが、手を出したと覚えはないぞ!」
「看護婦さんじゃねえよ。看護婦さんならおじさんだって大好きさ。雨月を利用しろって言ったのに逆に利用されちゃってさぁ。ああ、もう!まだマイホームのローンも残ってるのによぉ〜、娘の留学も妻のエステも全部、ぱあだ!どうしてくれるんだっ!」
「ぎゃあああ!!」

乱射される弾丸を近藤は死ぬ気で避けた。

「ところで、雨月はどこに居るんだ?アイツも連れて来いって言われてんだよ」
「雨月?雨月ならさっきまでそこに…」

朝のTV番組を一緒に見ていたはずの雨月が消えていた。すると、赤い靴下と手袋を持った雨月が廊下から顔を出す。

「近藤さん!…あ、松平さん、おはようございます」
「雨月…おめー、よくもこの馬鹿どもを唆してくれたなぁ。お陰でおじさんの首が飛んじまうところだよ」
「唆すだなんて人聞きの悪いこと仰らないでください。煉獄関は自滅したようなものです。僕らは表世界のルールを教えてあげただけです」
「馬鹿野郎。表世界も裏世界も、ルールはひとつだ」
「『長い物には巻かれろ』と?」
「お前みたいにやりたい放題やってたら命がいくつあっても足りねえの。分かったら少しは考えて行動しろ。特命係と言えども、俺達と同じ飼い犬だ。こいつら使って好き勝手に暴れるってんなら、おじさん…怒るからね」

サングラス越しに雨月を睨み付ける松平に、近藤が息を飲む。雨月は肩を竦め、暫くは大人しくしていると宣言した。

「よーし、それじゃ雨月、お前も城に行く支度をしろ」
「えぇ…いやです」
「嫌じゃねえ、行くの」
「なら、後で合流でも良いですか?巻き込まれて死にたくないので」

そう言って雨月は赤い靴下と手袋を近藤に押し付ける。

「ちょっと!俺、死なないから!まだ死なないから!」
「『備えあれば憂いなし』と言うでしょう」
「死に備えたって死ぬ時は死ぬから!」
「やっぱり死ぬんじゃないですか。松平さん、後で合流しましょう」
「仕方ねえな。ちゃんと来いよ?来なかったらどうなるか、分かってるよな?」
「おじさんの首が飛んじゃう、でしょ」

雨月は呆れながら言った。
近藤と松平は車に乗り込み、約束の場所へと向かう。道中、追突事故を起こしたり、殺し屋に狙われたりと災難に見舞われるが、何とか二人は時間通りに海崖に辿り着く。
先に到着していた雨月は、ボロボロになった二人を見て引き気味に尋ねる。

「一体、何があったんですか…」
「乙女座が二人揃った結果だ、このヤロー」
「生きて辿り着けたのは奇跡ですね」
「…時間だ」

その時、空から大型船が雲を割って降りて来る。
三人は導かれるまま、船に乗り込んだ。

「警察庁長官、松平片栗虎。真選組局長、近藤勲。特命係係長、雨月理央。参上仕り候!」
「ふむ、よく来た。本日、主らを呼び出したのは先日の一件…賭け闘技場、煉獄関について話があって。主ら、何かあったのか?」
「いえ、ドーナツ作りに失敗しまして…」
「にゅふふ…また何処ぞで暴れたのではないか?」
「お侍は大層勇敢でおられるからな。何でも僅か三十数人で煉獄関を鎮圧したとか」
「近頃の侍ときたら腑抜けばかりというのに。立派なものだ」

三人は黙って天導衆の話を聞く。

「あまり勝手に動いていると身を滅ぼすことになるぞ。もしも長生きをしたいのなら利口に生きることを覚えよ。良いな?」
「はっ!」
「雨月も良いな?我々は主の腕を買っておるのだ。今後、斬る相手を見誤るようなことがあれば、その腕章、"取り上げてもらわねば"ならぬぞ」
「………」

かくして三人は江戸の町に降ろされて、事なきを得た。松平は煙草を吹かしながら近藤と雨月に言う。

「まぁ、こんなことはこれっきりにしてくれよな。おじさんだってよ、家庭があるのよ。娘にギャル男の彼氏が出来て大変なんよ。それにお前らだってこれで最後だぞ。次にこんなことがあればお前ら…」
「あぁ、分かってるよ。とっつぁん、色々迷惑掛けて済まなかったな。次はバレないようにやるよ」
「フン…分かってりゃいいんだよ」

歩き去る松平を見つめる近藤。
雨月は、隊士達が近藤を慕う理由が少しだけ分かった気がした。



 

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