Wisteria

□第四話
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お昼休憩に入り、久しぶりに外に出た雨月は、おやつに食べる団子をお土産に持ち帰ることにした。良ければ食べていってと店主に言われ、お茶と団子のセットを注文し、露天に広げた椅子に座って出来上がるのを待つ。すると、ふと影が落ち、目の前に誰かが立つ。雨月は顔を上げてその人物を見た。

「あの、すみません。髪の毛、触ってもいいですか?」
「…え?」

雨月は目を丸くした。そこに居たのは、万事屋の主人、坂田銀時だった。他人行儀な態度と台詞に雨月はどうしたのかと銀時に尋ねる。銀時は首を傾げ、「もしかして、僕を知っている方ですか?」と質問を質問で返した。

「銀さーん!ちょっと、急にどうしたんですか!…って、あれ?」
「相棒!銀ちゃん、この男のことが分かるアルカ?」
「分かりません。でも、知り合いなんですね。すみません、僕、事故に遭って記憶が…良ければ、お名前を教えてもらえますか?」
「…その前に手を止めてもらってもいいですか?」
「わぁ…、すごい。さらさらだ。地毛ですよね?いいなぁ、羨ましい…」

銀時は雨月の髪を掬っては、さらさらと指の間に通して遊んでいた。

雨月の注文した品が届き、三人から話を聞くため、同じものを三つ頼み直す。三人は交通事故で記憶喪失になった銀時の記憶を取り戻す為、町を歩いて回っていたのだ。そこで銀時が雨月を見つけて声を掛けたらしい。

「何か、銀さんとの思い出話とかないですか?その…戦時中にあったこととか」
「そうですね…、さっきの反応はどうでしょう?」
「さっきの反応?」
「髪の毛を触ってもいいかって。僕と初めて会った時、同じことを言われました。髪がさらさらで羨ましいって。自分の髪は癖っ毛だからと」
「癖っ毛って…」
「銀ちゃんは天パヨ。誤魔化そうとしても無駄ネ。その髪は天パヨ」
「僕は昔から髪にコンプレックスを抱いていたんですね…」

ショックを受け、落ち込む銀時を横目に、雨月は話を続ける。

「僕も触っていいかって聞いて、髪を触らせてもらうんです。ふわふわで、耳の横で髪がくるんと跳ねてて…確かに癖が強いけど、僕はそれが羨ましいと答えました」
「…え?」
「そしたら銀さん、『自分がさらさらヘアーだからって俺を馬鹿にしてるだろ!』と怒ってしまって。それから暫くは僕の髪で遊んでました。羨ましい、羨ましいって言いながら」
「へぇ〜!」

お茶に口を付け、自分に話せることはそれぐらいしかないと雨月は言う。銀時に何か思い出せそうかと聞くと、ふるふると首を振った。

「残念ながら…。でも、なんだか安心しました。今まで出会った人達はすごく印象的な方ばかりだったので。理央さんのように落ち着いた方とも友達だったんだなって」
「………」

雨月は目を細め、そのまま一気にお茶を飲み干すと、「もう、仕事に戻らないと」と席を立つ。会計を済ませ、お土産の団子も忘れずに受け取る。

「補足しておきますが、僕と銀さんは友達ではありません。ただの知り合いです」
「え?でも…」
「銀さんは僕のことを嫌っていました。それが、僕に関するあなたの記憶です」

ガサリと袋を揺らし、甘味処を後にする雨月に、銀時は立ち上がって叫ぶ。

「あなたは!理央さんは僕をどう思っていたんですか!」
「…今のあなたが抱いた感情と同じですよ」

銀時は、顔を顰めて雨月の背中を見つめた。自分と同じ感情とはどういうことか。銀時は今、果てしなくもやもやとしている。それは記憶が無いということと、雨月の発言に混乱しているからである。

「なんか相棒、怒ってたアルネ」
「なんでだろう。銀さんは別に雨月さんのこと…」

新八と神楽は、考え込む銀時の様子を伺う。友達ではないと否定され、自分は嫌われていたと話した雨月を銀時はどう思ったのか…気になるが、幾度と無く振り出しに戻ったことを踏まえて二人は空気を読み、銀時の答えが出るまで待つことにした。
暫くして、銀時は困った顔をして笑った。

「考えても分からないので、次の場所へ案内お願いします」



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