Wisteria

□第六話
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近藤、土方、沖田の三人が風邪で寝込んでしまった。
山崎からその報告を受けた雨月は、仕事を放り出してどこか遠くへ行きたいと思った。だが、現実逃避したところで状況は変わらない。雨月は、いつも指示されている通りに仕事をするよう山崎に伝え、それを隊士達にも伝達するようお願いした。

「何かあれば、僕が対応しますので至急連絡をください。勝手なことはしないようにとも伝えてください」
「了解!あと、三人のことなんだけど…」
「なんですか?」
「誰かしらが見張ってないとダメな人達で…。特に副長は這ってでも仕事しようとするから…」
「………分かりました。僕がやります」
「ありがとう、雨月!」

山崎は、わっと笑う。

「なんでそんなに嬉しそうなんですか。そんなに面倒臭いんですか?」
「面倒臭いどころの騒ぎじゃないよ!副長はさっきも言った通り、大人しくしてないんだ。局長は薬を嫌がって飲まないし、沖田隊長はこれ見よがしに扱き使うし、正直言って仕事してる方が断然楽なんだ」
「…なるほど。そんな大変なものをあなたは僕に押し付けるんですね」
「え!?いや、違うよ?やるって言ってくれたからつい喜んじゃって。嫌なら代わるよ」
「いいですよ。山崎さんはマムシの残党を張っている最中でしょう?そちらを優先してください。その方が土方さんは安心すると思いますので」
「そうだね。ありがとう、頑張って動きを探ってくるよ」
「ええ、良い報告を待ってます」

山崎を送り出し、雨月は三人を閉じ込めたという部屋へと向かう。一人一人相手をしていたら体一つでは足りなくなることを予想し、最小限の移動で済むよう隊士達が先に移動させておいたらしい。

「失礼し…」

室内に向けて声を掛けると、目の前の襖が開く。そこには半裸の土方が立っていた。

「お加減の方は如何ですか?」
「…退け」

会話が成立しない。雨月は重症だと判断する。据わった目で雨月を見る土方の顔は赤く、体は汗ばみ、呼吸するたび熱い息を吐き出している。立っているのもやっとなくらいフラついている土方に、雨月は布団に戻るよう言う。

「邪魔だ」
「邪魔なのはあなたです。そんな状態で何が出来るというのです」
「仕事が溜まってんだよ…」
「ええ、そうですよ。風邪を治すという仕事の前に、布団に戻る、薬を飲む、眠るの三つの仕事が溜まっています。ほら、手を貸してあげますから、僕と一緒に風邪を治しましょう。ね?」
「…馬鹿にしてるだろ、お前」
「馬鹿になんてしてませんよ。馬鹿だと思っているんです」
「最低だな…」

部屋には隊士達が準備したと思われる桶やタオル、アイスボックス、服、薬が置いてあり、部屋の出入り口から近藤、沖田の順に並んでいた。沖田の隣には空の布団が敷かれ、そこが土方の寝床である。
汗を拭わないと風邪が悪化するからと清潔なタオルを一枚手に取って土方の体を拭こうとすると、土方は自分でやると雨月からタオルを奪った。怠そうに汗を拭い、着物の前を直し、雨月に言われる前に布団を被って横になる。

「…僕の隙を突いて逃げ出そうものなら、強制的に眠らせますから。そのつもりで」
「俺は病人だぞ」
「よく分かってるじゃないですか。病人なら病人らしく大人しくしててくださいね」

雨月は土方の前髪を上げ、氷嚢を乗せた。

「さて。お二人は、具合の方は如何ですか?」
「だるい〜…あつい〜…しぬ〜…」
「なんかふわふわする…雲の上にでもいるみたいにふわふわする…」
「近藤さんは、熱が高そうですね?何度でしたか?」
「38度、あったような、なかったような…大体そんな感じ…」
「発言までふわふわしてますね。それで薬は…」
「嫌だあああ!薬は嫌だああ!飲みたくないいい!」
「ちょ、暴れないでください!」
「雨月、近藤さんに薬はダメでさァ…。その人は見掛けによらず、薬もロクに飲めねえ餓鬼なんでィ」
「うるせえから黙らせろ。頭に響く…」
「大丈夫ですよ、近藤さん、落ち着いて。嫌なら飲まなくていいですから」
「そうやって皆、俺を騙したんだああ!そうやって皆、俺に毒を盛ったんだああ!」
「毒じゃなくて薬です。近藤さんのためを思ってのことですよ。僕はあなたのことをこれっぽちも思っていないので薬は飲ませません」
「嫌だああああ!そんなこと言わないでえええ!もっと俺を心配してええ!親身になってええええ!寂しいの、風邪の時しか優しくしてもらえないから寂しいの!構って欲しいの!」
「本音がダダ漏れですよ」

腕を掴んで泣きながら訴える近藤に雨月は、溜息を吐いた。



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