Wisteria

□第七話
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「えー、本来なら大晦日ぐらい羽目を外して皆で騒ぎたいところだが、我々には江戸を守るという使命がある。酒はこの一杯だけで我慢してくれ。だが、感謝の念なら俺がいくらでも注ごう。本当に一年ご苦労だった。じゃあ皆、一年お疲れやした!」
「カンパーイ!」

全裸になった近藤の掛け声に続いて隊士達が声を上げる。酒を呷り、準備したつまみを食べてながら、話に花を咲かせる。そんな彼らから離れた位置に座り、土方は思い切り羽目を外しているだろうとツッコミを入れ、その隣に座る雨月は、グラスに注いだオレンジジュースを飲み干した。

「では、部屋に戻ります」
「…お前はホント律儀だな」

土方に断りを入れ、雨月は足を引いて立ち上がった。しかし、腰を浮かせた雨月の前に一升瓶を抱えた沖田がやってくる。

「なんでィ。雨月はもう戻っちまうんですかィ?」
「宴会に僕が参加すると本気で思っていたんですか?一年の節目ですし、礼儀として顔を出しただけです」
「なら、礼儀として俺の酒を飲んでいってくだせェ」
「お構いなく。沖田さんに注いでもらえるほど活躍していませんので」
「何言ってるんでさァ。大活躍だろィ。遠慮しねえで飲みなせェ。ほら。それとも何か。俺の酒が飲めねえって、そう言いてえのか?」
「うぜぇ…。お前、いつもそんな絡まれ方してんの?」
「土方さんと比べたら全然マシですよ」

沖田は、雨月のグラスの縁ギリギリまで酒を注ぎ、早く飲めと急かす。それを座っていた土方に回すと、土方は、「俺も今日は飲まねえから」と雨月に返して立ち上がる。

「てめえらだけで楽しんでろ」
「いや、僕も部屋に戻るって言ってるじゃないですか」
「何か気になることでもあるのかィ、土方コノヤロー」
「マムシの残党が不穏な動きしててな。倉庫にあった大量の爆薬も消えちまったらしい」
「頭ぶった切ったのに尻尾だけで跳ね回るとは、蛇ってのはしつこくていけねェ」
「残党狩りに行くなら僕も連れて行ってくださいよ。部屋にいても暇なんです」
「だったらそこで子守でもしてろ。お前が居ると俺に害がなくて助かるから」

大広間を出ていく土方を雨月は恨めしそうに見つめていた。

「人を生贄みたいに使って…」

その横で、雨月の手からグラスを奪った沖田は一気に中身を飲み干した。



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