私は耳を疑った。目の前で険しい顔をして胸元を押さえるその様子が見事にリアリティを増幅させた。
「俺、病気かもしんねぇ。」
いつも何かと、暇さえあればいちゃもんを付けてくるギルが深刻な面もちで言うからすごく気になる。
「やだ、何それ。…お医者さんには行ったの?」
自然と眉間に力が入り、ギルの紡ぐ言葉を待つ。
なんだか薄灰色の空気が足の間を駆け巡った。
死んじゃったらどうしよう。
そんなことを考えて自分が少し嫌になった。
まだ、かもしれないって段階じゃない。早とちり。
ていうかギルなんか嫌いで死んだら清々するんじゃないの?
なに、私は心配してるの。
「行ったけど…」
「けど…?」
「よく分からねぇ。って言われた。」
新種の病なるものか。目に涙がたまる。
「おい、お前なら分かるかも。」
「何言ってんのよ、お医者さんが分からなかったんだから私に分かるわけ無いでしょ。」
少し鼻声の私にギルは鼻で笑って言った。
「まぁ、聞くだけ聞けって。」
笑い事じゃないだろう。なぜか本人より私の方が彼の身を案じている様で悔しい。
「分かったわよ。…病状は?」
ギルは口の端をつり上げながら答えた。
「目がおかしいんだよ。」
「どんな時に?」
「…今。」
そんな言葉と同時に顎が持ち上げられてギルと視線がぶつかる。
「ちょ…」
ギルは私の天敵だけど、顔だけは無駄に(本当に無駄に)整っているから頬が熱くなる。
「憎たらしい奴が可愛く見えるんだよな。」
ほら、おかしいだろ?自信満々にそう言われて思考回路が停止する。
「そ、それって…」
「なんだろーな、教えろ。」
「あんた、」
明らかに確信犯だと、迫る赤い唇に些細な抵抗を見せながら心の内で喚いた。
出来れば好きだと言ってもらえませんか
唾液がなくなりそうになった唇でそう言えば、
ドラマチックな告白されたいって言ってただろ?と悪びれる風もなく言ってみせた。
▽ あとがき
こういう臭いの書いてみたかった。