HETALIA

□自己暗示ワンダーランド
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太陽に照り返す赤が実る豊かな畑に赴けば、必ず会えると分かっていた。足元には、まだ青い水滴があって水まきをしたんだなと彼が鼻歌なんかを歌いながらホースを振り回す姿が想像される。どんな姿を想像してもやはり愛しいもので自然と目尻が下がる。会いたい、そんな気持ちが一層激しくなって早足に彼の家へ足を向けた。ザ、ザ、と鳴る土を踏む音に混ざってまるで猫撫で声のようなものが途切れ途切れに耳に届いて足を止めた。今日は来ちゃいけない日だったか。眉をひそめて数歩進むと、裏庭に敷かれた砂利が大きく音を立てた。背伸びをして家の中の様子を伺えば、阿呆みたいな顔をして体つきの良い青年にしがみつく女が夢中に腰を振っていた。
無性に腹が立って、今すぐにでもこの二人の間に入り込んで女の方をタコ殴りにしてやりたかったが、このまま女の絶頂までを観察するのも悪くない。男は少し意地悪な顔で女を攻め、女は家畜のように快楽に顔を歪めて仰け反る。それは日が地平線に沈みきっても続いた。行為が終わって、玄関先で交わされるキスはそれほど深いものでもなく女は不服そうな顔をした。じゃ、またなー。と訛気味の優しい口調の挨拶を聞いて、私は土まみれになった顔を拭いて立ち上がった。

「アントーニョ、」

呼びかければ、さして驚いたふりもせず「なに?」と笑顔で聞き返した。私の頬に手を伸ばして「土付いてるで、」と言って頬を拭う。

「さっきの女は、」
「五番目の子。三番目が今日急にキャンセルになったから、埋め合わせやで。」

この男に罪悪感はきっとない。私は、肩を抱かれて玄関の中へ連れ込まれた。「風呂貸したる。」信用ならない言葉だ。しかしそれに抗えない自分の方がよっぽど信用できない。風呂場の前で、床にくしゃと潰れる衣服に視線をやりながら聞いた。

「私が、一番よね。」
「一番目やから、安心してな。」

抱き寄せられた腰が、イヤだとわめく。
正常な脳のどこかがこの男と縁を切れとつんざく。けれど、一緒にいられるだけで幸せなのだ。見つめられるだけで幸せだし、話しかけられても、触れられても。だからきっと、今は幸せだ。「お前かて、俺が一番やろ?」どうしようもない焦燥が胸を侵した。



自己暗示ワンダーランド

恋人七人の中の一番目。それが彼の中の私なの。






▽ あとがき 0717
泣きたしスランプ。スペインがいやな男。

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