「ねぇ、スペイン。」
「んー?」
「ごめんね、傘。」

前髪からぽつぽつとしたたる滴の向こうに、赤い傘の色が映る。
男の子と相合い傘なんて初めてでいつもと違う、肩のぶつかる距離にいちいち緊張する。
彼は「女の子は体冷やしたらあかんで、気にせんといてな。」と笑った。

長い帰路、たどたどしく歩いたせいか足元の色は上半身と比べて一段と濃い。
家に着いて、玄関の屋根の下に入る。
「ありがとね、スペ…」
私は口元を押さえた。
視線の先は彼の左半身、もうずぶ濡れで肌にぴったりと張り付いている。
「どうしたん?」
何も気に止める様子が無い彼に、なんてお人好しなんだと呆れながら私は罪悪感に苛まれた。
「もしかして、私を濡らさないために…?」
傘のほとんどを私に傾けていてくれたのだ。聞かなくても分かることを、思わず聞いてしまった。
「ええんやって、ホンマに気遣いやなぁ。」
「違うよ、スペインのが気遣いさんだよ!…ごめん、本当に。家上がってって。」
タオルとお風呂貸すから。そう言っても、彼は「迷惑になるで遠慮しとく。」と頑なに首を振る。
他にもいろいろ提案したが全て却下された。
半分涙目になりつつ、つぶやいた。
「なんかお礼がしたいんだけどな。」
すると今までさわやかに断ってきたスペインが少し表情を変えて食いついてきた。
「それって、何でも良えの?」
「え、…うん。」
不適な笑みに少しいやな予感を感じながら、私に出来ることなら。と付け足した。


「せやったら、」





黒になる視界、雨の味


唇が離され、じゃまた来るで。と告げて去っていく。
その背中を見送っていると、さっきの感触を思い出して唇が熱くなった。






なにかあればどうぞ。



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