成×御

□stage:B
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Stage:B

シーツと布団の衣擦れの音が薄暗い部屋の中で響いた。ベッドライトの柔らかなオレンジ色が重なりあう影を壁に映し出す。
唇が解放されて、御剣は目が合わないように目を伏せる。成歩堂の手がパジャマの上から幾度となく弄るせいで、胸の飾りは布地の下からでもはっきりと形を主張していた。摘んだりひっかいたりこするように撫でたり。唇でついばむように愛撫したり。御剣が不安そうな眼差しで自分の手元を見ているのに気づき、成歩堂はにっと笑ってみせる。
「ここ気持ちよくなってこない?」
「いや」
御剣は即座に否定した。でも半ば嘘である。決して気持ち良いまではいかない、でも最近感じ方が変わりつつあり、御剣は動揺している。
「そっかぁ。やっぱり服の上からだからかなぁ」
成歩堂がつぶやく。御剣はどう答えていいか分からない。
最初はこのように触れられても何も感じなかったのが、今では何かむずむずするような、体の奥のほうが小さく疼くような感覚が生まれるようになった。
成歩堂にパジャマの上から触れることを許しただけなのに、もうすでに体が変化してしまいつつあるのか。その考えはひどく御剣を不安にさせていた。
成歩堂と御剣が世間で言う「恋人同士」になったのが半年前。お互いの家に泊まる時は1つのベッドで寝ることもよくあった。それでも御剣は体の接触をキスまでしか許していなかったのだが、ここ最近の成歩堂はベッドの中でだんだん欲を隠さなくなってきている。
多分この間自分から口づけしてしまったせいだ、と御剣は苦々しく思う。この駄犬を調子に乗らせてしまった。待て、ができなくなってきたようだ。
大人しく御剣の胸筋を撫でていた成歩堂の右手が、突然するりとパジャマの襟元から侵入してきた。肌に直接手のひらの熱さを感じて、御剣は即座に制止する。
「だめだ」
成歩堂は無視して更に奥まですべりこもうとする。
「こら」
御剣はその手を容赦なく払いのけ、すぐさま襟元の乱れを直した。ついでに先ほど成歩堂にくしゃりと搔き乱された髪も。成歩堂の腕の間で再び隙のない姿に戻る。
「御剣―」
成歩堂の大きな瞳が不満そうな色に満ちている。
「触れていいのは服の上からだと言ったろう」
「…分かったよ」
言葉では了承を、態度では精一杯不満を表す彼。体中撫でて口づけてくるさまは躾のなっていない犬に懐かれたようだ、と連想してしまう。
御剣の胸から腹の上を執拗に撫でていた成歩堂の手がついと下半身に伸びる。成歩堂の指が御剣自身に触れるか触れないかのところで御剣の手が邪魔に入った。成歩堂の右手とそれを掴む御剣の右手がしばらく攻防を繰り広げる。振りほどこうとする力と戒めようとする力が拮抗した。
「だめだ!」
焦った御剣の声。
「いいじゃん別に。触るだけならいいって言ってたでしょ」
「でも」
そこはだめだ、と御剣はぼそぼそ口ごもるように言う。
あ、頬が赤くなってる、なんてうぶなんだ、と成歩堂は愛しくも可笑しくもなる。いつも冷静で自分を振り回す御剣をベッドの中で翻弄するのは楽しかった。
「ネンネちゃんだね、御剣は」
「貴様」
御剣はきっと成歩堂を睨む。切れ長な瞳に、被疑者の口を割らせてきたであろう鋭い眼差し。でもそんなに頬を染めて睨んだって全然怖くない。調子を崩している御剣をからかってみる。
「怖いの? 怖いから嫌なんだろ?」
「……。違う、怖いわけでは、ない」
否定する彼をさらに煽る。罠を仕掛けるつもりで。
「ふうん?その焦り方はぼくがやることを怖がってるようにしか見えないけど。強がりだなぁ、御剣検事サマは」
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