棚
□Canary Catalogue Opening
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膨大かつ広大で奥深いﾈｯﾄ世界｡情報の正否･取捨選択は常にﾕｰｻﾞｰ側に委ねられている｡
行き交うﾃﾞｰﾀの奔流に浮き沈みしながら､一瞬にも満たないほんの僅かの間だけ､かつてこんな宣伝文句が流れたことがある｡
あなたも《ｶﾅﾘｱ》､飼ってみませんか?
いい声で鳴きます｡
一見､ただのﾍﾟｯﾄ愛好家の勧誘文句にも受け取れる｡
人の世は常に盛衰を繰り返し､時代は今やﾘｱﾙよりｳﾞｧｰﾁｬﾙを持てはやす風潮が色濃い｡
人と同じ時を刹那しか生きられぬ本物のﾍﾟｯﾄは金銭面や時間的な理由､衛生面や飼育放棄の多発などの社会的問題によりこの時すでに愛好家全体の三分の一を割り込んでいた｡
時を同じくして機械工学の目覚ましい発達により主流は生きているかのように動く機械のﾍﾟｯﾄ､もしくは仮想現実で思いのままに飼育できるｳﾞｧｰﾁｬﾙﾍﾟｯﾄに占められていたため､ﾈｯﾄの世界を行き来するたいていの者たちはﾋﾟｨﾋﾟｨ鳴くだけの鳥にはほとんど興味を示すことはなく､その情報も当たり前のようにｽﾙｰしている状態だった｡
しかし､このｷｬｯﾁｺﾋﾟｰにはまだ続きがある｡
家事から房事までこなす愛玩用､
ｽﾍﾟｼｬﾙな奉仕を提供する給仕用､
秘めたちからを戦場で遺憾なく発揮する軍事用｡
以上三ﾀｲﾌﾟをご用意｡
珠玉の美少年たちがあなたの生活に彩りを添えます｡
年齢も多数取り揃えてございます｡
詳しいお問い合わせは
ﾚﾝﾀﾙﾍﾟｯﾄｼｮｯﾌﾟ
【Canary Catalogue】まで｡
今宵､めくるめく時をあなたに……
そう､ここで言う《ｶﾅﾘｱ》とは生きた鳥でもｳﾞｧｰﾁｬﾙの鳥でもなく､人のために仕える人造の従順なるﾍﾟｯﾄのことを指す｡《ｶﾅﾘｱ》は人間と動物の遺伝子を掛け合わせて作ったﾐｭｰﾀﾝﾄがほとんどである｡しかしその存在を知る者は実に極僅かだ｡ﾒﾃﾞｨｱで全くといっていいほど取り上げられることもなく､少しも騒がれていないのがその証拠と言えるのではなかろうか｡
それらの情報をﾈｯﾄの深海からｻﾙﾍﾞｰｼﾞし深く興味を惹かれてもｼｮｯﾌﾟがどこにあるのか分からず､所在が分かってもたどり着ける者は少ない｡
また､たどり着けたとしても目が飛び出るほどのﾚﾝﾀﾙ料金を目の当たりにして怖じ気付く者も多く､利用客はほんの一握りの限られたｾﾚﾌﾞﾘﾃｨたちが中心となっている｡
従順で美しく愛らしい《ｶﾅﾘｱ》の虜になった者たちは密やかにｾﾚﾌﾞﾘﾃｨとしてのｽﾃｲﾀｽを誇示し､その楽しみを決して外へは漏らさないのだろう｡どんなに人に似た形をしていても所詮《ｶﾅﾘｱ》は籠の中の鳥と変わらないのかもしれない｡
この世の春を一点に凝縮したような､とろとろと甘ったるくどこか気だるい艶かしい華やかさを纏った街､SHINJUKU City｡
夥しいﾈｵﾝの洪水とその中にそびえる不夜城の如き超高層ﾋﾞﾙﾃﾞｨﾝｸﾞの林立する一画は､ｾﾚﾌﾞﾘﾃｨたちの優雅で煌びやかな生活様式とは明らかに一線を画した雰囲気を醸し出し､来る者は何人たりとも拒まない徹底した受動的性質を持っている｡
ﾚﾝﾀﾙﾍﾟｯﾄｼｮｯﾌﾟ【Canary Catalogue(ｶﾅﾘｱｶﾀﾛｸﾞ)】は､眠らない街SHINJUKU Cityのとある超高層ﾋﾞﾙﾃﾞｨﾝｸﾞの最上階にひっそりとその店舗を構え､今日も選りすぐりのｾﾚﾌﾞﾘﾃｨたちの来店を待っている｡
【Canary Catalogue】Open!!