SHORT
□この気持ちは本気
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たったったったっと廊下を軽快に走る足音、それを発しているのは副会長の四木だった。
生徒会室の前まで来ると急ブレーキをかけてドアノブに手をかけ、ドアを押し開けた。
「皆さんすみません、当番だったので少々おくれ……」
「やっほー四木ちゃーん、皆今日は用事があって遅れるらしいよぉ」
窓側の日当たりの良い席に腰を降ろし手をひらひらと振ってにへらと笑って四木を迎えたのは会長の赤林だった。
そして彼の前には何かの本が広げられていた。
四木はいつもの席に鞄を置き、資料室へと資料を取りに行った。
必要な資料をざっと確認しながら取っていきながらふと気になった。
(会長は何を読んでいるんだ…?)
まあ、聞いてみればいいかと結論付け生徒会室へ戻った。
戻ってきた気配に気づき、おつかれ〜なんて言ってもなお目の前の本から視線を動かさない。
「………さっきから熱心に何を読んでいるのです?」
「あ、これ?」
四木が聞くと赤林が嬉々とした表情で顔を上げた。
「コレねぇ、クラスの女子が盛り上がってたから借りてきたんだよねぇ」
そういって赤林が見せてきたのは“純愛生徒会の秘密の放課後”なんてタイトルの横でいちゃついている二人の人物が表紙の薄い漫画本だった。
「………なっ!!…何で、すか?それ!?」
「いや、だから、クラスの女子が盛り上がってたの」
「そこじゃなくて!なんで表紙が私と会長なんですか!?」
四木の言うとおり、赤林の手にある薄い漫画本――俗にいう同人誌は明らかにこの二人をモデルに描かれていた。しかもボーイズラブ、つまりはBLであった。
「んー…俺が頼んだから?」
「………は?」
「いやぁ、作者の子がね、ネタが無いって言うもんで面白そうだったからつい」
ハハハとカラカラ笑う赤林に対して静かに、しかし、確実に沸々と怒りを滾らせている四木。後ろに般若が見えるのは気のせいだろうか。
「会長……!」
四木が怒りで拳を振り上げ、殴りかかろうとした時、先ほどまでふざけていた赤林の表情が一変、真剣な眼差しにかわった。
「あぁゴメン。面白そうとかいったけど真剣に四木ちゃんを想ってるから頼んだんだ。この気持ちは本気だから」
ピタリと四木の動きは数秒間止まった。するといきなり鞄を掻っ攫うように掴み、お先に失礼します、と短くそれだけ言って足早に去っていった。
「照れなくてもいいのに…………まあそこが四木ちゃんの可愛いとこだよねぇ……」
生徒会室に取り残された赤林は一人虚空に向かってひっそりと呟いた。
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生徒会粟楠企画提出。
何が書きたかったかは聞いちゃいけない。
ただ私が同人誌を読みたいだけです。
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