彼と彼女の純情事情

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奇跡の起こる条件をこの地球の概念と共に100字程度で説明せよ、と掲示された場合、
一体何人の人間が豆鉄砲くらったような顔になって思考を止めるだろうか。

俺もその内の1人であるし、無論その答えを導きたいなどという
床の板目に挟まった消しカスよりどうでもいい探究心などは持ち合わせていない。
そう、すこぶるどうでもいい質問なのである。これは。
その答えもまた知ったところで「それで?」なのである。

しかし、俺は今、その文字には表しようのない"奇跡"とやらの中に、



――――小さな小さな神を見る。




窓の外を見るふりをして、ちらりと左を見る。
すると、ハッキリとした目鼻立ちに大人っぽい雰囲気の、
日焼け知らずの真っ白な肌の彼女――――みょうじさんが、俺の視界に映り込んでくるのであった。



みょうじなまえさん。
つい数時間前の席替えで、俺は見事彼女の隣を引き当てた。

美人なのはさることながら、ものをはっきり言うばっさりした性格、コーヒーのようなほろ苦い大人な空気を纏った、
でも時折みられる優しげなその笑顔に、入学当初から男子という男子に
清水とセットで"薔薇令嬢と椿姫"と呼ばれている。
ちなみに薔薇が清水、椿がみょうじさんだ。


つまり、そういうことだ。


俺にとってみょうじなまえさんとは、高嶺の花であり、手の届かない雲の上であったりするのだ。
それが今、ここに、目と鼻の先に。

この時まではみょうじさんの隣という位置に健全な男子高校生らしく
「お、ラッキー」くらいにしか思っていなかったのだ。


意味深に何度も繰り返すが、そう、この時までは。




***



「なまえちゃんだよね?ラッキー!俺クラス替えの時からずっとなまえちゃんの事気になってたんだよね」


ばかやろーと、心の中の自分に叱咤される。
それはほんの数分で、ほんの少しの事だったのだが、菅原はちょっとしたやるせなさに苛まれていた。

授業が終わり、流石にみょうじさんに挨拶くらいしようかと試みた瞬間、冒頭。

彼女の席は端ではない。つまり、彼女の両脇には、俺の別にもう一人いるわけだ。
それが、あの男子らしい。

その男子と彼女が楽しそうに会話をしている、ただそれだけの事だったのだが、落ち込んでしまった。


――――なんだかなぁ。


結局は、遠い存在なんだよな。
そう諦観すると、菅原はいつも通り仲の良い男子のグループに溶け込んでいった。




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