猫に恋慕節

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みょうじ。女子。帰宅部。隣のクラスって言ってたから、多分クラスは1-2か1-4。
猫顔。その上立ち振る舞いまで猫っぽい。


――――俺がそいつについて知っているのなんて、その程度だった。

下の名前や教師からの評判等を知らない分、隣の席の女子の方がまだ知っている情報は多い。


そんな奴と俺が、つい先日、猫を飼うことになった。
厳密にいうと少し語弊があるのだが、めんどくさいので省く。
俺にもわからん。どうしてこうなった。



でもなんとなく、あの日から俺はあいつを意識して目で追うようになってしまった。



と言っても、学校での関わりは皆無に等しい。
廊下ですれ違っても、あいつは目線一つ寄越さない。

はじめは猫を拾う一連の流れが、すべて夢とかそういうのだったんじゃないか
とすら考えたが、部活終わりに神社に行ってみると、ミケとあいつはやはりそこに存在しているのだった。
「よう猫男爵」という余計なひと言付きで。まごうことなき、殴り飛ばしたくなるほどの本物だった。


だからこそ、学校におけるあいつとの関わり方に、俺は少し戸惑っていた。


猫を飼っているっていう特別感が、あいつを他の女子と違うものにしていた。
あいつだけが飛び出す絵本みたいになって、必要以上に意識してしまう。
相手は俺の事を全く意識していないようだし、から回った勘違い野郎になってしまうのだけは避けたかった。


あいつの姿が思い浮かんでは、くしゃくしゃにしてゴミ箱に投げ捨てる。
でもまたすぐにどこからかひょっこり現れるものだから、そのゴミ箱は既にいっぱいになていた。
投げ捨てて入らなかったとき、床に落ちたそいつを拾ってゴミ箱に入れるのすら、なんだか気恥ずかしかった。



――――あーもう。



しつこく俺の脳裏にちらついてくるあいつに集中力を削がれて、帰りのHRも
いつの間にか「来週委員会決めるから考えとけー」で締めくくられていた。

委員会やあいつのことよりも先に、俺にはもっと考えるべきことがあった。



「……部活」



今週の土曜日、3対3で負ければ俺は3年間セッターをやらせてもらえないという窮地に立たされていた。
だから今、別の事に現を抜かしている場合ではないのだ。



眼球を潰すくらい強く目を瞑って、俺は騒がしくなった教室を後にした。


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