猫に恋慕節

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その日の帰り道、神社への足取りは水中を歩いているように重かった。
影山は部活中だとわかっていても、妙な心騒ぎが私の末端を冷やしていく。


私は無意識のうちに、足音を殺し、鳥居の影から神社をのぞいていた。
気分はストーカーだった。
しかしのぞいた先には、そんな犯罪臭溢れる私をも「にゃー」と歓迎してくれる、ミケの姿があるのだった。

その健気な対応を直視するのは、少し辛いものがあって。
私はいたたまれず目を逸らした。
自分のミスに周りが「気にするな」と慰めてくる、あの感覚に似通っていた。



「……あんたは何も知らないもんね」



そう呟いてミケの前にしゃがみ、丸っこい頭を撫でてやる。
ごめんね、と手から謝罪を伝わらせながら。


罪悪感ってやつは、どうしてこうも、どうしようもないんだろう。

影山に会うためにミケを利用しているっていうのは、疑いようのない事実だ。
そこを否定する気はない。本音であるとも自覚している。

なら、どうして。
ついでに自分が擦れ枯らしであることも自覚済みの私が、ここまで罪悪感と背徳感に追い立てられている理由が見当たらない。



「ごめんね」



遂には口に出していた。
そうしないと、せき止められた罪の意識が今にも爆発しそうだったから。
そうやって自分のために謝罪を口にする私は、やはりサイテーだなと思った。


あーあ、苦しい。

本当は迷っていた。
影山ともミケとも顔の合わせづらい私が、本当に今日神社へ行って大丈夫なものか。

行くべきか、行かざるべきか。
で、結局来たわけだ。
理由としては、今日行かないと負けた気がして悔しかったから。
私が来なかった理由を考察した影山が、可能性の1つに「俺と会うのが気まずかった」という理由を構築するのが死ぬほど嫌だった。

私はただ、影山がいて、私がいて、2人でミケへの接し方に奮闘して、微笑ましく貶しあって、
そんな日常を自然に取り戻して、このもどかしさを振り払いたいだけだったのだ。


けど。




「……来ないね」



部活終了の時間を過ぎても、今日という日に限って、あいつはやってこないのだった。



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