But/I love,

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いままでのあらすじ。

弁当を引っくり返した俺は謎の女子におにぎりを授けられた。
そしてその女子に勢い余って告白した。何を言ってるのかわからねーと思うが以下略。


いかん。自分の思考と言動が一致しなさすぎて、全く整理がつかん。
それどころか、整えた端から誰かに乱されていくような感覚に苛まれる。
今俺の感覚器官と感覚神経に二人三脚をさせたら、一歩目ですっ転ぶ自信があった。


さらに、だ。
おにぎりの中にアルコールでも入ってたんじゃないかと思わせる俺の告白に、この女は、




「どこへ?」




目をぱちくりとシャッターのように切りながら首をかしげる彼女。
そのセリフはまるで、味付けを失敗したチキンライスに砂糖でもぶちまけているようだった。

これに卵をかぶせてオムライスと称して芝山に食わせたら、あいつは泣いてバレー部をやめてしまいそうだった。
いや、もしかしたら犬岡あたりなら、持ち前の雑食本能でおかわりを成し遂げてしまうかもしれない。

……なんてどうでもいい事を考えてしまうのは、この全く成立の色を見せない会話に、どう対応したらいいのかわからなくなっていたからだ。


彼女はきょろきょろと忙しなく辺りを見回して、俺が何も言わないことに、道に迷った幼児でも見つけたような顔を張り付けて言う。




「……えと、黒尾くんの好きな所って、どこ?」




は、いィ?


この女子は先程のオムライスに、ケチャップ代わりに醤油をかけた。
見かけによらず鬼だな、と動揺が動揺を呼ぶ。

何言ってんだこいつ、と引いてみるものの、先に「何言ってんだこいつ」だったのは俺であり、
その上彼女の真っ直ぐな目で見つめられると、なんだか自分がとんでもなく恥知らずな人間になった気がした。



状況を整理してみる。

彼女と俺の会話に隙間ができている理由は、多分、認識の違いだ。
憶測で話を進めるが、彼女は俺の「付き合って」を"そういう意味"ではなく、『買い物付き合って』とか、そういう意味で捉えてしまったのだろう。

「(そこが)好きなんだけどさ、(そこに)付き合ってくんない?」→「そこってどこ?」ということか。


力が風船みたいに抜けていくのが、自分でもわかった。
表面には出さなかったものの、俺も内心焦ってたんだなぁと痛感した瞬間だった。
主語を言っていなかったことに、救われたというべきか、阻まれたというべきか。


そうして安心した瞬間、それと競り合うように、焦燥感のようなものが沸騰してきた。

そんな解釈するか普通?フツーの女子なら、赤面するなり引くなり叫ぶなり殴るなり、それ相応の反応があるはずだった。
俺から言わせれば、お前の解釈が「どこへ?」である。

まるで「卵かけごはんが食べたい」と言ったら、鰻重が出てきたような。
いや確かに卵かけごはんよりはるかに豪華だが、俺は卵かけごはんの気分だった、というような。


そして最後に遅れてやってきたのは、疑問。
「なんでムキになってんの」と言われてしまえば、その通りなのだ。
折角本意でない突飛な告白が、勝手に風化してくれたのだから、そのまま「ラッキー」と逃げてしまえばいいのに。

じゃあ、どうして。




「おいみょうじー、昼終わりだぞー」




「あ、はーい。了解でーす」




バスケ部顧問の声に、俺の懸念が蹴り飛ばされる。
あっさりと現実に居座ったそれに、目の前の彼女が間延びした返事をした。




「じゃーね、黒尾くん。またね」




小さく手を振って、気さくに笑う。
そうして立ち上がった彼女は、小走りで体育館の奥めがけて走っていった。


そうして結局、ここには消化不良でマヌケ面を晒した俺が残るわけで。
結局開きっぱなしのこの口から、言葉が発せられることはなかった。
おにぎりの栄養分働いていたのは、耳だけだった。


その耳が拾った情報は2つ。
彼女の苗字が「みょうじ」であるということ。
そして、もう一つは、――――


――――彼女は多分、天然であるということ。
それも、生粋の。

顧問に呼ばれていたから、バスケ部関連の人間なんだろうか。そんな考察も浮かんでいく。


そうして膨らんでいく可能性はあっという間に俺の寝癖だらけの頭でパンクした。
今日の午後は、集中できそうにない。





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