彼と彼女の純情事情

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偶然の確率を数字にて答えよ、と掲示された場合、
一体何人の人間が「は?」という疑問詞とともに首を横に捻るだろうか。

私もその内の1人であるし、無論その答えを導きたいなどという
ぞうきんの毛玉よりどうでもいい探究心などは持ち合わせていない。
そう、すこぶるどうでもいい質問なのである。これは。
その答えもまた知ったところで「だから?」なのである。

しかし、私は今、その数字には表しようのない"偶然"とやらの中に、



――――小さな小さな神を見る。




時計を確認するふりをして、ちらりと右を見る。
すると、キリリとした面持ちなのにどこか幼い、目の下の泣き黒子が印象的な彼――――菅原くんが、
私の視界に映り込んでくるのであった。


菅原孝支くん。
つい数時間前の席替えで、私は見事彼の隣をゲットした所存である。

相手が誰であろうと態度を変えず、いつも真面目で優しい、聖人君子を絵に描いたような人だ。
私は時折みられる彼の笑顔と、それと共に弾ける爽やか元素(原子記号Sk)に、入学当初から好感を持っていた。
というか、大半の女子がそうなのではなかろうか。

ただ、勘違いされやすいのは、私の"好き"は1人に向けた"love"ではないということ。

大抵の女子がそうなのではと思うけど、高校生の好きな人って言ったら少なくとも2.3人はいる。はずだ。
告白されたら付き合ってもいいと思える男子。その内の一人が菅原くんというだけなのである。失礼だけど。

たとえばほら、このクラスのバレー部主将の……澤村くん、だったか。
彼も中々のイケメンさんである。
私は壮行式で彼を見かけるまでは、確実に柔道部員だと思っていた。


つまり、そういうことである。


この時までは菅原くんの隣という位置に健全な女子高生らしく、
「あ、ラッキー」と10円拾ったくらいにしか感じていなかったのだ。

意味深に何度も繰り返すが、そう、この時までは。




***




「なまえちゃんだよね?ラッキー!俺クラス替えの時からずっとなまえちゃんの事気になってたんだよね」


ばっかもん、と心の中でどっから現れたのか、出所の掴めない波平が叫ぶ。
私は今目の前のこの男子をダーツの的にシャーペンを投げるか、
もぐら叩きの様に電子辞書でひっぱたくか、真剣に悩んでいた。

授業が終わり、とりあえず菅原くんに話しかけてみようかと試みた瞬間、冒頭。

私の席ははしっこではない。つまり、私の両脇には菅原くんとは別に、もう1人いるわけだ。
それが、この男子らしい。
ラッキーとかほざいているあたり、こいつも私同様偶然の確率を引き当てたわけである。
ちくしょう、何が小さな神様だ。
こういう軽薄そうな輩が、私は一番苦手だった。

ばかやろう、くそ。なまえちゃんなんて呼ぶな。お陰で菅原くんに話しかけ損ねた。

菅原くんは既に男子のグループに混ざって会話をしていた。
時々みえる笑顔に楽しそうだなぁとしょげてしまう。
そのグループの中には澤村くんもいて、あ、2人って仲良いんだとプチ発見。


しかしこの男の前では、すべてが丸め込まれて吹っ飛んでしまう。

名乗られたが、脳内で連立方程式を解きながら相槌を打つ方法を模索していたら聞き逃してしまった。
そんな適当に接して、適当に愛想振りまいていたにも関わらず、
いつのまにやら付き合う方向にまで持って行かれていた。信じられん。


「や、そういうのはちょっと」


やんわり断るが、こいつは食い下がらない。うぜぇ。

挙句の果てには「付き合ってみれば俺の真剣な愛に」「運命が俺ら二人を」云々。
ごめんなさい、途中は笑いを堪えるのに必死でした。

しかしそれをすっかり「好感もたれた」と勘違いし、どんどん饒舌になる軽薄男子。
それに比例して私の腹筋も細胞が死滅していった。

勘弁してくれ。
こんなに性格の悪い私の、一体どこがいいんだか。




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