白い雪の姫の事情

□白い雪の姫の事情
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「まるで白雪姫みたいね」

小さい頃からうんざりするほど言われつづけている言葉。
両親から始まり、親戚、近所、高校に入ってからはクラスメートからも「白雪姫、お目覚めのキスは要りますか?」なんて言われるようになる始末だ。
しかも、それがまたときどき冗談なんだか本気なんだか分かんないマジな顔していう奴もいるから反応に困る。
最近ではそれも日に日にヒートアップしていって、さすがに両親に聞いたわけだ。
「なんで白雪姫なんて馬鹿げたあだ名をつけたのか」って。
結構本気だった。
その理由を本気で知りたかったから。
そうして返ってきた答えは、雪のように肌が白いとか、髪の毛が黒くて艶やかだとか、(生まれたての赤ん坊のどこを見てそう思ったのかは謎だ)親バカの常套句を存分に含んだ半ばこじつけ。
この時ほど自分を呪ったことはない。
なんでこいつらに聞いてしまったのかって。

そしてそんな"白雪姫"につけられた名前が『由希(ゆき)』。
由来は……言わなくても分かって?
ここまでくると、もう親バカの域なんか超えていると思うんだよね。
その辺の親バカなんか敵じゃねー、みたいな。
そういう意味では尊敬の念を抱くに値する。


でもまあ、顔がいいって言われるのは悪くない。
そりゃ何事も良いに越したことはないから。
だけどさあ、さすがに白雪姫はやめてほしいんだよね。
恥ずかしいし。
小さい頃ならまだしもさ。

今、俺、高校二年の男だし。





「君が白雪姫だね。会いたかったよ、マイハニー」

肩の上で綺麗な金髪を揺らして、やけに目鼻立ちの整った青年が両腕を広げて近寄ってくる。年は多分、20歳かそこら。
さっきまで夢の世界に飛び立っていた俺には、今の状況をすぐさま把握できるわけもなく、見知らぬ男に思いっきり抱きしめられても、ぽかんとなすがままになっていた。
抱きしめられても俺の体が裕に収まることから、彼との身長差は10センチくらいはありそうだ。
そうすると、俺が162センチだから172センチくらい?
うわ。うざい、憎い、羨ましい。
「は、離せよ!!」
「おっと…、全くおてんばな姫だなー」
とにかく男に抱きしめられたままというのは絵柄的にも心情的にも気持ち悪いので、抱きしめてくるその体を押して拒否する。
男は俺を解放し、ニコニコと俺に笑いかけた。
これが俗に言う“王子スマイル”というやつだろうか。
女がキャーキャーしそうな笑い方だ。
でも、なんていうか……胡散臭い。

「お前、急になんなんだよ。つか、何者?んで、ここ何処だよ!?」
男はいかにもコスプレのような服を纏っていた。
やたらと豪奢で、ひらひらきらきらした……簡単に言ってしまえば、どこぞの王子みたいな格好だ。
男の肩越しに、これまた椅子にも、キラキラと目に痛いほどに眩しい装飾が施されている。
ふと周りを見渡せば、世界史の教科書でしか見たことのないような景色が俺を取り囲む。
何処かで見たことあるなーなんて思って、頭の中に浮かんできたのはベルサイユ宮殿。
ただし、ベルサイユのようにそこらへんに糞は落ちていない。
しかも此処は、いかにも戴冠式とかしそうな雰囲気を醸し出していた。
いわゆる大広間みたいな感じだ。

「まあまあ、そんなに慌てないでよ。そうだな、ここは白雪姫の国のお城。そして、俺はこの国の王子様。つまり白雪姫、君のダーリンなわけさ」

そう言って男が、ちゅっと音を立てて俺の手の甲に口付けをする。
女なら泣いて喜びそうだが、男の俺には気持ち悪いだけだ。
むしろこれで喜んだら、自分不信に陥る。
白雪姫?王子様?馬鹿にしてんのか?
はっきり言って、意味が分からない。
頭の中で俺の今まで培ってきた常識やら、自称王子が言った言葉やらがぐるぐるまわって混乱する。
一般の高校生が突然こんな場所に連れてこられて、これまた突然そんな言葉をぶつけられても、はてなマークが頭の上に浮かぶだけである。
ちょいん。ちょいん。
あ、なんか今の可愛いかも………。

…………。

――……何言ってんだ、俺。

だあーっ!!
どこから、普通の日常じゃなくなったんだっけ?
どこから、おかしくなったんだっけ?
必死に記憶をたどる。
そうしてゴールにたどり着くのに、時間はかからなかった。

あぁ、そうだ。


ことの発端は、数時間前に遡る。
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