君と僕の間にあるモノ。

□プロローグ
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僕の周りには、何でも二つある。



ベットも二つ。
机も二つ並んでる。
椅子も二つちょこんって。
まくらだって色違い。
それに綺麗にたたんであるお揃いのパジャマもある。



なんでも二つ。
それが当たり前。
それが僕にとっての普通なんだ。




そうだよ。僕の世界は何でも二つ。




二つあるものは一緒に、一つしかないモノははんぶんこにする。
それが君と僕の約束。
何でも仲良く使いなさいってお母さんも言っていた。



だから僕たちは、その約束をずっと守ってる。
生まれた時から、いや。
生まれる前から一緒の姉弟だもん。



僕の隣には、必ず君が居るし。
君の隣には、必ず僕が居る。




「「ずーーっと一緒だからねっ!!」」




2人でニコニコ笑いながら、指切りしたのを今でも覚えてる。



大好きな家族に、大好きな弟。



幸せだった。
もう、これ以上ないくらいに。
大事で、大切で。
皆で居れば、悲しい事なんてあっという間に忘れちゃったくらい。



2人で笑うんだよ。
泣いてる暇なんてないでしょ?



そう言ってごしごしと服の袖で僕の涙を拭ってくれたり。
もう、本当。



これは笑うしかないんだな、って思った。



いつも僕が泣いてると、励ましてくれた君。
だけど、あの出来事の前には君も泣くしかなかったよね。



僕たちが七歳の頃だった。
両親が突然の死亡。
原因は事故だった。
両親は自営業をしていたんだけど、返りの道で反対車線からやって来た大型のトラックと正面衝突してしまった。
トラックの運転手が、飲酒運転をしていて、ハンドル操作を誤ったのが原因。



もう訳が分からなかった。
どんなに泣いても、どんなに怒っても。
変わらないのは、両親がもう帰って来ないと言う事。



ただ、それだけだった。



なんで、なんで居なくなっちゃうの?
良い子にしてれば帰ってくるよね?
だって、良い子で待ってろよって、・・・すぐ帰って来るね、って言ったんだもん。
お母さん達が帰ってくるまで、ずっと起きてるもん。



何度、親戚の人に両親は帰って来ないって言われたって信じなかった。
2人で帰って来るって信じて待っていた。
そして、もう絶対に帰って来ないんだって、確信してしまったのは一週間後。



どんなに待っても、聞こえない。
「ただいま」、って言ってよ。
「おかえりっ」、って言いたい。
帰って来たんだよ、って親戚の人に言ってやりたい。



でも無理だった。
一か月経った頃には、もう完璧に諦めた。
そしたら親戚の人に、「お母さん達は、笑ってる貴方達が大好きだって言っていたわよ」、って悲しげに微笑みながら言われたんだ。



単純だっただろうか、でもそれで良い。
それを聞いて2人で、「もっともっと2人で笑おう」、って決めた。



「ずっと一緒」で「いつも笑顔」。
これが2人の合言葉になった。



それからは一度だって両親の事を忘れた事は無い。
2人で毎日仏壇にお祈りしてから学校に行ったし、休みの日は一週間の出来事を報告したりもした。



ずっとそんな毎日。
時は速いような、遅いようなスピードで流れてる。
だけど、どんな事があったって、今この時は一度だけなんだ。
だから大切にして生きようねって2人で思った。



「神様って意地悪だ」、と気付いたのは十歳の頃。
いったい僕が何をした。
いったい優(ゆう)が何をしたって言うんだ。



学校で突然優が倒れて、病院に運ばれた。
何なんだ。
酷く焦った。
それと同時に怖くなった。



また居なくなっちゃうのかな、母さん達みたいに。



優は一週間入院と言う形になって、検査が行われ、原因を調べられた。
大事な僕の半身。
誰も変わりなんて出来やしない。
僕の隣には君だけなんだよ。



難しい事は分からなかった。
ただ一つ分かったのは、僕の半身の余命が三年だってこと。



本当、神様は意地悪だ。
僕が何かしたのなら謝る。
僕が何か罪を犯したとしたなら、償うから。
だから、どうか、お願いです。



僕の一番大切なものを奪わないで!!



僕は病室で泣き崩れた。
なんで、なんで、なんで。
嫌だ、嫌だ、嫌だよ。
僕、今度は1人になっちゃう。
どこにも行かないで、1人にしないでよ。



わんわん泣いて、目が真っ赤に腫れて。
受け入れたくなくて、君が消えるなんて。



本当は一番つらいのは、泣きたいのは君のはずなのに。
ぐすぐす、と泣く僕をぎゅって抱きしめて。
頭をぽんぽんって撫でてくれた。
それはお母さんやお父さんにして貰ったのと一緒の事で。



「ごめん、ごめんね」なんて。
謝るのは僕の方なのに。
自分の命があと三年だなんて、言われた時の君の気持ちを、僕は確認する術なんてあるはずもない。
だけど、きっと想像も出来ないほど凄い感覚なんだと思う。



十歳の僕には、三年は長いようで、きっと短いんだと思う。
だから決めたんだ。
今日はいっぱい泣いて、明日から涙なんて見せないで笑おうって。



だって最後に君が思う僕の顔が、泣き顔だなんて嫌だから。
君がして欲しい事いっぱいしてあげるんだ。



だから笑ってよ。
最後のその時まで。
君の笑顔は、何よりも幸せになれる魔法なんだから。
 

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