君と僕の間にあるモノ。

□たった1人の僕の家族
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さわさわ、と風が流れるとある日の屋上。

後、一か月。
優が余命宣告された日まで、あと一か月。
なんて時の流れは速いのだろう。
もっと一日が長ければ、と思ってしまう。


もっと、一秒でも長く、隣にいたいのに。


本当は学校になんか来たくない。
だけど、優が行って来てって言うから・・・、僕には優の分まで生きて欲しいって言うから。

最初はあまり学校には通えなかったけど、少しづつ通えるようになって来た今日この頃。
学校には来てるけど、やっぱり真面目に授業を受ける気にはなれなかった。
だから僕は、こんな三月のまだ肌寒い、屋上で、下の景色を眺めている。



「何を思っても、何を見ても君と重なるよ・・・。あーあ、僕この先生きてけるのかな」



なんとなく、そんな事を思った。
グラウンドで体育の授業を受けている上級生を見ても。
音楽室での、楽器の音も。
小さく聞こえる、先生の国語の授業内容も。



ここから見える、聞こえる、触れる全ての物が、僕と関係無いもののようで。
全部が僕を受け入れてくれないようで。
とにかく、変な感覚だ。

優の事で精神でもやられてしまったのだろうか。
そう思ったら、なんだか悲しいよな変な感覚が渦巻いて、自虐的な笑みがこぼれた。

僕は1人では何もできないのかもしれない。

何をやるにも2人で、ずっと一緒だと思ってたから。

自然とこぼれそうになる涙をぐっと堪えた。
泣くなよ。
泣いたって何も変わらない。
泣くんだったら、笑え。


「幸(ゆき)には笑ってて欲しい」


ずっと何人もの人に言われ続けた言葉。
お母さん、お父さん、親戚の人、そして優。

その名前は幸せになって欲しいからつけられたんだよ、って。
幸せになって、周りの人も幸せにする人になって欲しい。

そんな良い言葉が、僕の名前の由来。
だけど、そんな思いを残して、消えていってしまった人がいる。

消えそうになっている人がいる。
その事だけがただ本当に嫌だ。



「でも、嫌だって思ったってしょうがない。もしその時が来たら、受け止めるだけだよね」



受け止められる。
大丈夫。きっと。




がんばろう、そう決意した時に、午後の授業終了のチャイムが鳴った。
終わったんだ、と思った瞬間。
僕は教室に向けて走り出した。

速く病院に行かなきゃ。




        
 

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